3月31日夜にアップされた「コロナ感染、2カ月ぶり2500人超 宮城・青森で最多」という朝日新聞記事が目に留まりました。感染者数(検査陽性者数)の発表を重視した報道が続いていますが、報じられている「新規感染者数」はその日までに集約された報告数がベースとなっています。その日に新型コロナウイルス感染症を発症したわけではありません。テレビや新聞で報じられる「新規感染者数」はその点を割り引いて冷静に評価しなければなりません。

 

 感染者数をめぐっては、東京都が1月7日に発表した「2447人」という数値が大きく報じられたことが記憶に新しいです。読売新聞は1月8日付朝刊の1面で「感染最多7568人 都内2447人」(東京本社、最終版)と報道。NHKのウェブサイト(1月7日23時11分)では「東京都 新型コロナ 2447人感染確認 2日連続で過去最多更新 」と題した記事をアップしています。これらは東京都の発表に基づいており、その意味においては正しいです。

 

 では、1月7日に実際に発症した人数はどの程度だったのでしょうか。東京都の新型コロナウイルス感染症対策サイトを見ると、その日の発症者数は、当時発表された「2447人」(2月15日に2520人に修正)の半数弱の「1178人」にとどまっています。実に2倍以上の開きがあります。

 

 正確なデータがまとまるには時間がかかるので、東京都が発表する日ごとのデータと当日の発症者数に一定の差が生じることは理解します。ですが、それにしても差が大き過ぎです。疑問を覚えたので、第2次緊急事態宣言が発令された前後の感染者数データを東京都のサイトから拾ってグラフ化(昨年12月27日~1月13日)してみました。すると以下のようになりました。

 現時点で確認できる「報告日」ごとの感染者数推移では、1月72520人、8日2459人、9日2332人とこの3日間が突出して多くなっています。ですが、「発症日」ごとのデータでは7日1178人、8日1040人、9日962人となっており、いずれも報告日の数値の半数未満です。年末年始をはさんだ影響が大きかったのかもしれませんが、この3日間の報告数は実態と著しくかけ離れた「幻のデータ」といっても過言ではありません。

 

 なお、東京都のサイトでは、発症日ごとのデータについて「発症日不明者(検査結果が陽性であっても症状がない、発症日を覚えていないなど)はグラフから除いている」との注釈をつけています。なので、実際に発症した人は、公表されている発症日ごとの数値より若干多いと考えられます。

 

 こちらでグラフ化した期間の感染者数を累計すると、報告日ベースでは計23268人、発症日ベースでは計18821人となりました。発症日ベースの感染者数は報告日ベースより2割程度(4447人)少なくなっています。これに基づき、「真の発症者数」を公表データの2割増し(無症状陽性者はいないものとする)と仮定して試算すると、1月7日に発症した都内の感染者数は1400人超と推計されます。これはあくまで試算に過ぎませんが、この補正を経ても、1月7日当日に発表された感染者数は当日の「真の発症者数」(試算)よりも、1000人程度膨らんでいます。

 

 NHKのコロナ特設サイトでは「感染状況を正確に把握するには、『患者が発症した日ごとの数の推移』を分析することが必要だとされています。データがまとまるまでに数日かかる一方、自治体が毎日発表している感染が確認された人数とは異なり、検査の状況や報告の遅れといった要因で数が上下しないことから、感染の状況を正確に表すとされ、対策を考える上での世界的な標準になっています」と解説しています。各自治体から発表された感染者数をおどろおどろしく報じているNHKも、その数値に正確性が欠けていることはきちんと理解しているわけです。

 

 さて、感染症対策において重要な指標である「発症日ごとの陽性者数」の推移を見ると、東京都におけるピークは1月4日の1524人です。この日を境にピークアウトしており、実は緊急事態宣言が再発令される前から感染者数は減少傾向にあります。現在、大阪府など一部地域で「プチ緊急事態宣言」といえるまん延防止等重点措置の適用が検討されているようですが、緊急事態宣言の効果を検証するためには、発症日ベースのデータを把握すること不可欠です。

 NHKも含めテレビ番組は連日、「東京都の感染者数は〇〇〇人」などと大きく報じていますが、冷静に評価する必要があります。とりわけ、都道府県のコロナ特設サイトでは報告日ごとの推移しか明らかにしないケースが目立っています。繰り返しになりますが、データを正確に捉えるためには、発症日ごとの数値の公表が必要不可欠です。

 

 付け加えれば、発表日ベースの数値に基づいた「〇曜日では過去最多」といったワイドショーの報道は、国民を脅かす以外の意味はありません。