17日は、都内で開かれたセミナーに参加しました。テーマは、家主が家にごみをため込み悪臭や害虫をもたらす「ごみ屋敷」の対策条例です。ごみを強制撤去する行政代執行にばかり目を奪われがちですが、所有者には体の衰えや認知症、障害などさまざまな背景がある場合も多く、福祉の視点が大切ということでした。



 
 以下は、セミナーの要約です。長いので、ご関心があれば…。
 
 この問題に詳しい出石稔(いずいし・みのる)関東学院大教授によると、所有者がごみと思わなければ「財産」となるため、市町村はなかなか行政処分できません。このため、ごみを廃棄物ではなく「財産」と認めたうえで規制しようとする動きが進み、現時点で、東京都足立区や京都市、横浜市などの7自治体が関連条例を制定しています。
 
 どの条例も、行政が調査、指導・勧告、命令や代執行を行うための規定を整備しています。さらに、京都市、愛知県豊田市、神戸市の各条例では、即時に強制執行できる規定や、立ち入り調査拒否などに伴う罰則規定も設けています。これまでに、条例に基づく行政代執行は、京都市と福島県郡山市で行われました。


 
 横浜市内には60件のごみ屋敷が存在。ごみが庭先にあふれ出るような極端なケースは2件のみだそうですが、「現行法令では対応できる範囲に限界がある」としてこの9月に条例を定めました。ごみを自宅敷地内に溜めてしまう背景には「加齢や疾病による身体機能の低下、経済的困窮、地域からの孤立など様々な課題がある」ということで、この条例では福祉的な支援を重視しています。

 市の担当者は「条例制定でごみ屋敷の担当部局が明確になり、『責任逃れ』ができなくなった。自分たちの仕事として主体的に取り組めるようになったことが最大の意義だ」と話していました。


 
 愛知県豊田市では、ごみ置き場からごみを収集して自宅にため込む「ごみ屋敷」が問題化。地元テレビなどで報じられるようになりました。昨年8月、地域ボランティアがごみを撤去したまでは良かったのですが、その後に、蚊取り線香から出火して家屋が全焼。周辺住宅も全半焼となりました。このため、「既存の法律や条例では速やかな対応ができない」として、約半年後の今年3月に条例を制定しました。

  こんな背景があるだけに、条例では指導に従わない場合の公表や過料徴収を規定。火災や倒壊の恐れが高い場合には、ごみをすぐに移動できるよう即時執行措置も定め、行政が強力な対応をとれるようにしています。市の担当者は「ごみを片付けても再発しては意味がない。困りごとを防ぐ福祉的な支援が重要であり、庁内関係課の連携が不可欠だ」と話していました。

 東京都足立区では、ごみ屋敷に対する住民の苦情が相次いだことを受けて平成25年1月、全国に先駆けて条例を制定しました。家主が自力で撤去できない場合は、区が樹木伐採やごみ片付けの費用を最大100万円負担できるようにしています。

 この9月には、問題を解決した累計件数が112件となり、100件を突破しました。区の担当者は「条例制定によって所有者の戸籍や課税などの調査が可能となり、正しく状況を把握できるようになった」と話していました。
 
 ごみ屋敷対策は、国土交通省所管の「空き家対策特措法」と違って、担当する省庁が環境省と厚生労働省にまたがります。「タテ割り行政」の弊害で、法律制定はなかなか難しいといいます。今後、対策を強化する自治体が増えてくるでしょう。