21日は相模原市内に足を運び、八木秀次麗澤大教授の講演を拝聴しました。八木教授は、教育問題にも造詣が深い保守派の論客として知られ、私も前職時代に取材させていただいた方です。お題目は「渋谷区同性パートナーシップ条例の背景」。この条例は昨年4月に施行され、正式名を「渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例 」といいます。渋谷区が、条例に基づいて、同性カップルらに「結婚相当」を認める「パートナーシップ証明書」を発行したことで話題となりました。

 八木教授は、同性愛に基づく関係について「寛容な姿勢は必要で、差別や侮辱はあってはならないが、男女の結婚と同じように扱うわけにはいかない」と訴えました。その上で、この条例について、「個別の問題は個別に解決すればよい。(条例化によって)あえて一般原則の変更を混同させている」と疑問視。憲法が24条で「婚姻は両性の合意のみに基づいて成立し…」と定め、94条で「地方公共団体は…法律の範囲内で条例を制定することができる」としていることから、「二重の意味で憲法に抵触する可能性がある」と説明しました。


 この条例を実際に読んでみると、過激さを感じざるを得ません。

 8条1項では「何人も、区が実施する男女平等と多様性を尊重する社会を推進する施策を不当に妨げる行為をしてはならない」と定めています。要は、「区が実施するこの手の施策を妨害するな」と言っているわけで、大変不遜で傲慢な表現だと感じます。

 8条2項では「区、区民及び事業者は、性別による固定的な役割分担の意識を助長し、若しくはこれを是認させる行為又は性的少数者を差別する行為をしてはならない」と規定。ジェンダー(社会的・文化的な性差)そのものを否定しています。

 昭和時代の家制度や「男らしさ」「女らしさ」を色濃く反映しているアニメ「サザエさん」や「ドラえもん」、欧陽菲菲の曲「Love is over」の歌詞の一節「泣くな男だろう」、 昔の人気アニメ「機動戦士ガンダム」で、主人公アムロ・レイが戦地に向かう際につぶやいた独り言「悔しいけど、僕は男なんだな」…。これらも「性別による固定的な役割意識を助長する」としてNGとなりかねません。「専業主婦」を勧めたり促すような発言・行為も認められないのでしょうか。言論の自由が損なわれる恐れがあります。

 15条によると、相談や苦情の申し立てを受けた区は、その相手方に対して「是正勧告」を行えます。それに従わない場合には、「氏名公表」も可能です。

 つまり、この条例は「多様性の尊重」をうたう一方、「男らしさ」「女らしさ」を重んじる考え方については、まったく尊重していません。その上で、単なる理念条例にとどまらず、一定の拘束力を有しています。「ジェンダーフリー論者」の悲願を達成した集大成と言っても過言ではないでしょう。

 論点がズレるので、ここらでやめますが、パートナーシップ証明書が実際に普及し始め、結婚と同様の扱いを受けるようになれば、区内の会社での家族手当支給などを目的とした「偽装同性カップル」が出てきてもおかしくありません。実際の戸籍をいじらない分、通常の偽装結婚よりもやりやすいはずです。

 この条例が抱える問題は極めて大きいと言えるでしょう。