The Beatles Lover No.5　ザ・ビートルズ・ラバー・ナンバー・ファイブ

人気ラジオ番組が、読んで楽しめるテキスト版になりました。

ディープなファン目線、そしてサウンドメーカー目線でビートルズへの愛💖と共に楽曲を紹介していく人気ラジオ番組「The Beatles Lover No.5」。

杉田裕（JAYWALK）とサミー小川（メディアプロデューサー）がナビゲートします。

381回【2024年7月13日〜19日】の放送は、『ザ・ビートルズ全曲バイブル新版』の主な執筆者の一人である米村幸雄さんをゲストにお迎えしてお送りします。

『The Beatles Lover No.5 の聴き方、楽しみ方（最新版）』人気ラジオ番組The Beatles Lover No.5　ザ・ビートルズ・ラバー・ナンバー・ファイブ好きな時に、好きな場所で、好きな人と。ビートルズへの…

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【サミー】いまや音楽とパソコンは切っても切れない関係にあります。

【裕】音楽を作る上でも、ライブでも必需品です。

【サミー】杉田さんはかなり早い時期からパソコンを使っていますよね。

【裕】NECのPC98で音楽ソフトを導入して楽曲を作りはじめました。1980年代の半ば頃だったかな。

【サミー】当時と比較すると、今は格段に性能が向上している。

【裕】それはもうすごいですよ。MACを初めて買ったのは80年代後半でしたけど、ハードディスクが100メガだったんです。そしたらギターの知久光康くんが、そんな大きいのいらないだろうって言ったんです。現在と比較すると、考えられないほど小さな容量だった。

【サミー】ビートルズがレコーディングしていた当時は、すべてがアナログの時代でした。そうしたアナログ録音された楽曲のバージョン違いやテープの切り貼り編集の痕跡などを、パソコンを使ってデジタル的に解析・研究されている米村幸雄さんをゲストにお迎えしています。米村さんは、このほど出版されました『ザ・ビートルズ全曲バイブル新版』の主な執筆者で、現役のプログラマでもあります。

【幸雄】よろしくお願いします。

【サミー】米村さんは、いつ頃からビートルズの楽曲のパソコン解析を始めたのでしょうか。

【幸雄】マーク・ルイソンさんが『ビートルズ／レコーディング・セッション』（The Complete BEATLES Recording Sessions）という本を出版され、また『ビートルズ・アンソロジー』が出ましたよね。それらに触れて、音源をデジタル的に解析すると面白い研究ができるんじゃないかと思いました。

【裕】米村さんのお話は、このあと、グッと掘り下げてお送りします。

【サミー】楽しみです。

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オープニングテーマは杉田裕の「ビートルズなんて誰も知らない」

ビートルズなんて誰も知らないProvided to YouTube by massenextビートルズなんて誰も知らない · 杉田裕WALK of LIFE℗ Number five MusicReleased on: 2023-02-27Lyricist: 小川修身Composer: 小川修身Auto-generated by YouTube.

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米村幸雄さんが初めて発見した「キャント・バイ・ミー・ラヴ」謎の音

【サミー】米村さんは様々な幅広い文献を読み込み、アウトテイクも含めて楽曲を分析し、ビートルズのレコーディングを研究されていますが、なんと言っても最も有名でユニークなのがパソコンを使った楽曲の解析です。

【裕】パソコンを使った研究をされている方は他にいないと思いますが、その手法などを教えてください。

【幸雄】この原理はとても単純です。みなさんがステレオで音楽を聴いた時に、真ん中から音が聞こえるのは不思議だと思いませんか？

【サミー】真ん中にはスピーカーがないのに…。

【幸雄】音自体は左右のスピーカーから出ているけど、その中間からいろんな音が聴こえてくる。左右のスピーカーから同じ音が同じ音量で出ているから、真ん中で鳴っていると人間の耳が判断しているのです。

【裕】ここまではシンプルで理解しやすい話ですよね。

【幸雄】同じ曲だけどちょっとだけ違うバージョンを左右のスピーカーから流すと、同じところは真ん中から聴こえるけど、違うところだけ左で聴こえたり右で聴こえたりする。

【裕】なるほどー！違う部分が分かるんだ。

【幸雄】調べようと思っていなくても、音が勝手に聴こえてくる。

【サミー】左はモノ、右は（モノ化した音の塊の）ステレオといった感じで流すんですね。

【幸雄】それが顕著に現れた最初の例は「キャント・バイ・ミー・ラヴ」です。左のモノの方からハイハットが鳴り始める。音としての事実は分かったけれど、その理由について、どんな仮説を立てるのか？それが次のステップです。

【サミー】「キャント・バイ・ミー・ラヴ」はパリで録音されて、テープをロンドンに持ち帰ったら高音域が損傷されていたという話もありました。

【幸雄】実際のところテープが損傷していたのかどうか、はっきりしたことは分からないんです。モノもステレオも大元となったのはそのテープとされているので、違いは出てこないんですけど、モノの方にだけハイハットが入っている。

【裕】そこから始まったんですね。

【幸雄】これを見つけた時に、それ自体が面白いと思って、アメリカのニュースグループに投稿してみたんです。そしたら「何を馬鹿なことを言ってるんだ」と返事が返ってきて、誰も相手にしてくれなかった。

【サミー】当時はSNSはありませんでしたけど、誰も知らない事実だったんだ。

【幸雄】その後、2006年にジェフ・エメリックが『ザ・ビートルズ・サウンド最後の真実』（Here, There, and Everywhere: My Life Recording the Music of The Beatles）という本を出しました。「キャント・バイ・ミー・ラヴ」については、テープの損傷の話と、ミキシングの段階でエンジニアのノーマン・スミスがドラムスをセットして叩いていたと書いていました。

【裕】ミキシングなのに、なぜドラムを叩いたのかってことですね。

【幸雄】ハイハットが増えているという事実は、そこで辻褄が合う。これなら納得できるなと。ミキシングする時にも音を足していたという説明が成り立つ。

【サミー】なぜモノだけだったんでしょう？

【幸雄】完全に個人的な仮説ですけど、当時のイギリスはモノを重視していて、ステレオはそこまで力を入れていなかった。だから、モノは丁寧にやったのでは？

【裕】ステレオは手を抜いた（笑）。

【サミー】シングルになるのはモノだからね（笑）。

ザ・ビートルズ・サウンド最後の真実 [ ジェフ・エメリック ]

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2010年代になって見つかった「キャント・バイ・ミー・ラヴ」の新たな音

【サミー】「キャント・バイ・ミー・ラヴ」については、2009年の『全曲バイブル』旧版が出版された後、新たに解き明かした謎があるんですよね。

【幸雄】2014年に映画『ア・ハード・デイズ・ナイト』のBluray版がリリースされました。そこには映画のオリジナル・モノ音声が付いていました。

【サミー】そうでしたね。

【幸雄】そのオリジナル・モノの「キャント・バイ・ミー・ラヴ」を調べてみたんです。そしたら、モノで追加されたハイハットとは違う4ビートのハイハットやスネアが入っていたんです。

【裕】ほう。

【幸雄】これを聴いて、モノでハイハットだけを入れたのは、ノーマン・スミスではなくてリンゴではないかという結論になった。

【裕】ミュージシャンの立場からすると、ハイハットをダビングするのって難しいんです。曲も揺れているし。だからエンジニアのノーマン・スミスではなく、リンゴがプレイしたんじゃないかなー。

【幸雄】映画用はノーマン・スミスか、誰か別の人が演奏したのではないかと思います。リンゴらしくないドラムスになっている。

【サミー】深いですねー。このようなことが『ザ・ビートルズ全曲バイブル新版』で読める。

【裕】どっさり書いてある。

ヘッドホンで聴くからこそ…人間の脳の不思議

【サミー】米村さんは、どんな環境で楽曲を聴いているのでしょうか？

【幸雄】一般的な家庭にあるステレオだと思います。ただ、このような作業を始めてしまったので、常にヘッドホンで聴いている状態です。だから、自分の家のスピーカーを鳴らしたことはあまりありません（笑）。

【サミー】ヘッドホンじゃないと違いが分かりにくい。

【幸雄】スピーカーのプラス／マイナスを逆転すると、真ん中の音が消えてカラオケになるという話がありましたよね。でも、それをヘッドホンで聴くと、なぜか消えずにちゃんと聴こえる。人間の脳がどうなっているのか不思議なんですけど。

【サミー】あー、そうなんですね。

【裕】位相を変えると、逆に音が外に出ちゃったりもする。

【幸雄】そのあたりのことを脳科学の専門家の方に解明してほしいですね。

ビートルズにハマったきっかけは「イエスタデイ」

【裕】そもそも米村さんは、どうやってビートルズにハマっていったんですか？

【幸雄】中学に入った時にラジオを買ってもらったんです。30分の音楽番組を聴いていたら、ビートルズ特集をやっていたんです。そこで耳に残ったのが「イエスタデイ」「ヘイ・ジュード」「レット・イット・ビー」だったんです。これらの曲を繰り返し聴きたくなって、ステレオ装置が欲しいなって思ってね。親にねだって買ってもらいました。

【サミー】良いお話ですね。

【幸雄】自分の中学の校区から出ることができないほどの田舎に住んでいますから、レコードを買ってきて欲しいと親に頼んだんですよ。♪イエスタデイ〜♪とか言っている曲を買ってきてくれと。そしたら探して買ってきてくれたんです。かけてみたら♪オンリーイエスタデイ〜♪という曲だった（笑）。当時はやっていた「オンリー・イエスタデイ」だったんです（笑）。

【サミー】カーペンターズだったのか（笑）。

【幸雄】親に文句も言えないので、自分でレコード屋さんに行くしかないなって思った（笑）。そこでやっと「イエスタデイ」のシングルを買えた。「アクト・ナチュラリー」とのカップリング。

【サミー】「イエスタデイ」は僕も思い出深い曲なんです。中学３年生の時に放送委員をやっていました。放送委員は給食の時間に音楽をかけることができるから、自分で手を上げた。

【裕】自由に選曲できる。

【サミー】ただ、オープニング曲だけは先生と相談して決めておかなければならない。僕はビートルズの曲をいくつか提案したんだけど、その中で先生がOKを出したのが「イエスタデイ」。米村さんと同じシングルを学校に買ってもらって、給食の時間の冒頭にかけてました。あんまり元気が出ないなー、なんて思いながら（笑）。