ビートルズのラジオ番組といえば The Beatles Lover No.5 ザ・ビートルズ・ラバー・ナンバー・ファイブ
人気ラジオ番組が、読んで楽しめるテキスト版になりました。
ディープなファン目線、そしてサウンドメーカー目線でビートルズへの愛💖と共に楽曲を紹介していく人気ラジオ番組「The Beatles Lover No.5」。
杉田裕(JAYWALK)とサミー小川(メディアプロデューサー)がナビゲートします。
490回【2026年8月15日〜21日】の放送は、アルバム『ヘルプ!』(Help!)の楽曲をご紹介します。
【サミー】今週も、日本を代表するビートルズのレコードコレクター、横野正憲さんをお迎えしてお送りします。横野さんは、長年にわたり国内外の貴重なビートルズ関連音源や資料を収集されており、特に英国オリジナル盤や希少盤に関する深い知識をお持ちです。近年はトークイベントや関連書籍などにも協力し、豊富な知識を活かした活動を続けています。
【裕】横野さんは、これまで様々なレコードを購入されてきましたが、「あの時買っておけばよかったな」と思うものってありますか?
【正憲】たくさんありますよ(笑)。中でも高校時代に買えなかったのが「マイボニー/ツイスト」の日本盤。
【裕】先週ご紹介いただいたのは西ドイツのデモ盤でしたよね。
【正憲】神戸の中古レコード屋さんの壁に飾ってあったんですけど、値段が10万円。高校生に10万円は無理でした。それが今やみんなが探すレコードになってしまった。
【裕】なかなか手に入らないんですね。
【正憲】もうひとつ、幻と言われているものがあります。「見た見た詐欺」ってみんなから言われるんですけど(笑)。私がレコード店で見たって言うと、コレクター仲間からは「ホンマかいな」って(笑)。それは日本盤の「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」シングルの赤盤。存在するのかどうか、まだ誰も見たことがないとされるものです。でも、私は大阪の中古レコード屋さんで見たんです。
【サミー】幻のツチノコみたいな話になってますね(笑)。
【正憲】そこでは5万円だったんです。その時、私はその知識がなかったので「ま、いいか」って思って、他のレコードを買っちゃったんです。これは本当に失敗したなと。
【裕】ああ、そうなんですね。
【正憲】もうひとつは、高嶋弘之さんが手がけた幻の『ザ・ベスト・オブ・ビートルズ』。これは日本企画のベスト盤で、結局テスト盤の段階でストップがかかって発売されませんでした。レーベルは白で文字がガリ版印刷になっているものです。それが中古レコード屋さんに飾ってあったんですけど、百数十万円もしたので、これはちょっとさすがに…、と思って買わなかったんです。
【サミー】その時、買っておけば、今頃大変なことになっていたかも。横野さんのディープなお話は、後半の「今週のビートルズ・ラバー」のコーナーでたっぷりと語っていただきますが、その前に今週ご紹介する楽曲は?
【裕】今週は5枚目のアルバム『ヘルプ!』のB面2曲目「イッツ・オンリー・ラヴ」(It’s Only Love)、3曲目「ユー・ライク・ミー・トゥー・マッチ」(You Like Me Too Much)をご紹介します。
【サミー】では担当する曲を「ビートルズじゃんけん」で決めましょう!「ビートルズじゃんけん」は、グーはジョン、チョキはポール、パーはジョージ、あいこの時はリンゴと言います。手の動きと口の動きを連動させるのが脳トレになりますよ!では、「最初はジョン」で始めるよ…。
オープニングテーマは杉田裕の「ビートルズなんて誰も知らない」
スペーシーなギターサウンドが素敵な「イッツ・オンリー・ラヴ」(It’s Only Love)
【裕】ギターのイントロが、すごくスペーシーな感じがして好きですね。でもジョンは歌詞を評価していなかったとか。
【サミー】「何から何まで韻を踏んでいる。酷い歌詞だ」と言っています。
【裕】サビのメロディがスティービー・ワンダーの「ア・プレイス・イン・ザ・サン」に似ている感じがする。
【サミー】そうなんだ!でもジョンの方が先だよね。
【裕】Aメロもどこかで聴いたことがある気がするんだけど。やっぱり、メロディメーカーとしてのジョンは、普遍的なメロディを作っているんじゃないかなって気がする。
【サミー】なるほど。
【裕】それとね、レコーディングしてると、あれもこれも足したくなって音数が増えてしまうことがあるんだけど、この曲はそれほど音数が多くなくて、すごく透明感のある楽曲に仕上がっていると思います。
【サミー】僕はね、この曲はブライアン・フェリーのカバーが忘れられないんですよ。70年代、洋楽にのめり込んでいた頃に聴いているんですけど、フェリーのクネクネした感じの歌い回しが頭に残っていて。それと比べるとジョンの歌はすごくスッキリしていて、素晴らしいなと思っています。変な褒め方になっちゃいましたけど(笑)。
【裕】ストレートな歌だよね。
【サミー】ジョンの歌の素晴らしさを実感します。
間奏のフレーズは誰のアイデア?「ユー・ライク・ミー・トゥー・マッチ」(You Like Me Too Much)
【サミー】65年2月17日にレコーディングされています。『ヘルプ!』のセッションで取り上げられたジョージ曲としては、2日前の「アイ・ニード・ユー」に続いて2曲目となります。結局、映画には使われず、アルバムB面3曲目という微妙な位置に収められています。
【裕】確かに微妙な位置だ(笑)。
【サミー】3人がキーボードを演奏しています。マーティンのピアノはイントロ左で聴こえるほか、間奏、エンディングでも演奏しています。ジョンはホーナー・ピアネットNというエレピ。イントロ右で聴こえるトレモロ付きの音ですね。バッキングのメインになっています。ポールはピアノで、イントロと間奏のマーティンの1オクターブ上を弾いているようですが、音は小さめですね。
【裕】ポールのピアノはわかり難いよね。
【サミー】間奏はギターが下降フレーズを弾いたあとピアノが上昇フレーズを、次にギターが上昇フレーズを弾いたあとピアノが下降フレーズを弾いていて、とてもカッコいい。これは誰のアイデアなんだろう?マーティンかなぁ?
【裕】僕もそう思う。おしゃれですよね。当時のビートルズのメンバーからは出ないアイデアかもしれないよね。
【サミー】ちなみに、イントロは「サムシング」のリフと同じコード進行で、「G-Bb-D7-G」となっていると『ザ・ビートルズ全曲バイブル新版』では述べています。意図したものではないと思うんですけど。
【裕】どちらもジョージだよね。ジョージのメロディってシンコペーションを多用して、特徴的だよね。
【サミー】キー「G」の曲ですけど、歌は「Am」からスタートしています。こういうところも個性的だよね。
横野正憲さんのすごいコレクター人生を追う…その③
【サミー】ゲストをお迎えしてビートルズ愛を語っていただく「今週のビートルズ・ラバー」のコーナーです。
【裕】今週は横野正憲さんに「クラブイシュー」について伺っていきます。
通販用「クラブイシュー」って何だ?
【正憲】レコードは、レコード屋さんの店頭で売る方法のほかに、通販で売るという方法がイギリスやアメリカ、西ドイツで行われていました。元々は本の通販、ブッククラブというのがあって、それが発展してレコードクラブになったようです。いわゆるサブスクみたいな形で会費を払うとレコードが送られてきたり、あるいは安く買えることもあったみたいです。そこで売られたものを「クラブイシュー」と呼んでいて、私がレコードをコレクションしている間にそういうものに触れる機会があって、集めてみると面白いんじゃないかって思い、だんだん染まっていったんです(笑)。
【裕】なるほど。
【正憲】アメリカ盤はジャケットの端に3本の黒い線が入っていて、カタログ番号に「8」という数字が足されている。だから「ST8***」という番号が入っていると、通販用のレコードだなってわかる。ただし、ある時期よりも前は店舗と共通のレコードを売っていたようで、区別がつかないらしい。でも、もしかしたら「マト」が違う可能性もあるかもしれない。
【サミー】「マト」とは?
【正憲】「マトリクス番号」のことで、レコードのプレスが増えていくと数字が進んでいきます。そういう観点からの楽しみ方もあるんです。
【サミー】事前に私が聴かせていただいた音源は何だったのでしょうか?
【正憲】ドイツ盤の最初に出たクラブイシューで、タイトルは『ザ・ビートルズ』。ジャケットはリンゴが椅子に座っている通称『チェア・カバー』というもの。それがドイツの最初の通販用レコードです。
「抱きしめたい」ステレオ音源は65年版だが・・・
【正憲】このドイツ盤クラブイシュー『チェア・カバー』にはモノとステレオ両方があって、今日お持ちしたのはステレオ。リリースは、一般的には1964年とされています。これには「フロム・ミー・トゥ・ユー」、「抱きしめたい」、「サンキュー・ガール」のステレオが入っています。「サンキュー・ガール」のステレオは64年にアメリカで先に出ているので、これが入っていてもおかしくはない。問題は「フロム・ミー・トゥ・ユー」と「抱きしめたい」なんです。
【サミー】その音源はどこから?
【正憲】「抱きしめたい」のステレオは63年、65年、66年の3つが作られたと言われていて、66年版はUKの『オールディーズ』に収められています。65年版はドイツで65年に発売されたLP『The Beatles Gratest』に入っている。63年は、ずっと後になって76年のオーストラリアのシングルで初めて出たと言われています。音の違いは63年版が一番はっきりしていて、ボーカルが右に寄っています。事前にサミーさんに聴いていただいたのは、65年版の音源です。
【サミー】なるほど、そうだったんですね。
「チェア・カバー」発売は64年?65年?
【正憲】クラブイシューの『チェア・カバー』は、64年発売と言われているけど、当時のレコードの発売日の記録は結構いい加減なので、実は65年だった可能性もなくはない。だから65年だったら「抱きしめたい」の65年版が入っていてもおかしくはない。
【サミー】なるほど。
【正憲】でも、本当に64年に出ていたとしたら、これはどうしたことかという話になる。これが64年に出ていたとしてもおかしくはないという推測は、同じくドイツ盤の『The Beatles Beat』・・・日本では78年に臙脂色のジャケットで発売された・・・これは64年に出ているんです。ただし、出たのはモノ盤だけで、ステレオ盤はなぜかキャンセルされているんですね。当時のドイツはステレオがメインなので、モノ盤だけが出るというのは不思議な状況。ステレオがキャンセルされた理由はわからない。でも、それと全く同じ収録が『チェア・カバー』なんです。推測としては、『The Beatles Beat』のステレオをキャンセルする代わりに、『チェア・カバー』をステレオで発売して、話題を作りたかったのではないか、と思える。同じ収録曲で同じ64年で『The Beatles Beat』はモノ盤だけでステレオはキャンセル、『チェア・カバー』はステレオ盤だけと考えると、64年というのはあり得る話だなと。
【裕】なるほどー。
【正憲】但し、「抱きしめたい」の65年版ステレオと思われる音源が入っているのは変だねと。でも、64年はドイツ語版の「抱きしめたい」をミックスした年で、ステレオを作った上でドイツ語のボーカルを被せている。こう考えると、65年版と言われているものが64年の段階で絶対になかったのかと言われれば、そうでもないかもしれない。
「フロム・ミー・トゥ・ユー」63年ステレオ音源が『チェア・カバー』に使われた!?
【正憲】もうひとつ、「フロム・ミー・トゥ・ユー」は63年にモノを最初に作った時に、一緒にステレオが作られたということになっています。その後ステレオは廃棄されて、66年の『オールディーズ』用にステレオが作成されたと言われています。これはちゃんとしたミックスではなく、右と左を適当に分けたもののようですけど。そう言われていますが、この『チェア・カバー』はそれよりも前、65年以前のレコードなのに「フロム・ミー・トゥ・ユー」ステレオ版が入っている。66年の『オールディーズ』ではなく、それより前の『チェア・カバー』に入っている。だからマーク・ルイソンの『ビートルズ/レコーディング・セッション』に書いてあることは間違いで、63年に作られたステレオミックスがそのまま使われているというのが正しいのではないかと考えられます。66年に作られたというのは違うのではないかと思えてくる。
【サミー】これって衝撃の新事実なのかも!
【正憲】もともとUKのシングルはモノなので、ステレオを作っても使いようがないということで、同時に作ったり作らなかったりということがありました。ただ、66年に『オールディーズ』のステレオを作るということで、足りないステレオ音源を慌てて用意するということはあったでしょう。とはいえ、それよりも前のドイツのレコードにステレオ版が入っているよっていうのは辻褄が合っていない。
【サミー】謎が深まりますね。
※ラジオでは「フロム・ミー・トゥ・ユー」(『チェア・カバー』収録ステレオ)を聴いていただきました。
エンディングテーマは杉田裕の「絶望してる暇はない」





