俺は初めての暴力を鮮明に覚えている。


高度成長期が続いていた昭和の時代。

埋め立て地に作られた巨大な団地群。

団地に住むためには抽選で選ばれた時代だった。


そして、そこにはたくさんの子供たちが居た。

どこの団地の棟にも少なくとも10人くらいは子供が居た。いや、もっとだ。その倍は居たと思う。


団地にも色々あって、市営とか県営とかによっても広さとか間取りも様々で、数年後に同じ地区にマンション群が出来るまではどれも同じ感じだった。


俺は県営に住んでいた。今となっては低所得者専用住居だが、当時はまだ真新しい団地だったから、どの住人も活き活きとしていた。


隣の階段には同い年のカズオが住んでいた。

俺が住んでいる階段には、幼稚園児で太っちょのノブ君、学年の違うコジマ兄妹、同い年のマキちゃんなどが住んでいた。


どの家の家族もまだ住み始めて一年経つか経たないかだ。


そんな時期に小学校に入学した俺やカズオやマキちゃん。因みにコジマ兄妹とは学年が違うし、親同士が中が悪かったので絡みが無い。ていうか嫌いだった。

なんていうか、うちの玄関の前でワザと咳払いをする変な家族だった。うちのオフクロなどは、コジマさんとは呼ばないで、「メガネ」と呼んでいた。コジマのおばさんがメガネをしているという理由だけで……。


まだ引っ越してきたばかりでカズオとは口もきいた事が無かった。それに、カズオもマキちゃんも違うクラスだった。


入学して間もない頃……


下校途中でカズオを見かけた。


3人組の子供たちに虐められていた。


まだ小学校一年生になったばかりだ。


3人はカズオのランドセルを石でズタズタにしていた。


初めて目にする残酷な暴力だった。俺は唖然としてその光景を後ろから見ていた。


カズオは泣いていた。そして発狂していた。

振り返ったカズオは3人組に石を投げつけて応戦していた。


俺は石が当たらぬよう避けていたが、カズオは俺にも石を投げつけてきた。

涙でぐしょぐしょになったカズオの顔。その視界は俺をしっかりと捉えていた。


その翌日。


学校でカズオの事が大問題になっていた。


まだ入学したばかりなので、カズオを虐めた3人組がどこのクラスの子かさえ分からないという事で、犯人探しが始まった。


ひとクラスずつ先生に連れられて巡回するカズオ。


俺は1年6組だった。

先生に連れられて現れたカズオ。


「この中にいる?」と先生。


そしてカズオは俺を指差した。


俺は何が起きているのか理解できなかった。


頭が真っ白のまま別室で待機させられ、しばらくすると母親がやってきた。


俺は「僕じゃない」と否定した筈だった。

だけど、先生も親もみんながみんなカズオの味方をした。


家に帰り、まずオフクロに裁縫用の物差しで滅多打ちにされた。更に親父が帰ってきて平手打ちを喰らった。3歳上の兄貴はそれを無関心に眺めていた。


そして、カズオの家に謝りに行き、カズオの母親から罵倒されたのを覚えている。

当然のようにランドセルは弁償だ。ランドセルは当時も高価な物で、一万円くらいはしたと思う。


小学校1年といえばまだ6歳とかだ。俺はそんな歳に暴力を目にして、暴力を受けた。その上、親からも信じて貰えなかった。


当然のように俺は精神を病んだ。そんな時に肺炎に罹り、入学してしばらくすると登校拒否児童となった。


学校にも行かず、同じ団地に住む年下の子供を配下につけてまとめ上げていた。そして徹底してカズオと敵対した。


俺のグループにはひとつ下のマモル、ワカナ君、キョウちゃんの3人がいた。


野球したり、メンコしたり、コマ廻ししたり、とにかく外でよく遊んだ。


同じ団地の中で、歳の近い子供が遊ぶのは自然の事だし、そうやって小さなコミュニティが出来上がってゆく。だがカズオは別だ。


カズオが近くに寄って来ると俺達は徹底して無視をするか場合によっては唾を吐いたりした。


そのうちカズオの妹がカズオの母親にチクるようになり、カズオの母親が「なんでうちの子と遊ばないの!」と激怒するようになった。


仕方無いから、たまにはカズオと一緒に遊ぶふりをした。だが、最終的には野良犬のウンコをカズオに投げつけたり、落とし穴にハメたり、野球するふりしてカズオに全力でボールをぶつけたりした。

その結果、カズオの母親が般若のような顔をして俺らを追い回し、家に帰ると自分の母親に滅多打ちにされた。


そうして悪童になってしまった俺だが、小学校2年生に上がるとマキちゃんと同じクラスになった。マキちゃんに促され、嫌々と学校に行くようになったが、そこで待ち構えていたものは、俺のような異端児を極端に嫌う愛の欠片も無い女担任の先生だった。

俺が7歳の時の担任だから、もう生きていないかも知れない。生きていたとしてもかなりの高齢だ。


せっかく学校に行き始めたのに、今度は先生のせいで俺は再び登校拒否児童となる。


先生の話は次の話で書くとして、問題はカズオだ。なぁカズオ、元気でやってるか?

お前のおかげで大きなトラウマ喰らったけど、もう一度言うぞ。あの時、お前のランドセルをズタズタにしたのは俺じゃない。お前、一度でも俺に謝ったか?

でも、もういいよ。俺もだいぶお前に仕返ししたからな。悪かったな俺も。


本当は酒でも酌み交わしてお前と話したかったけど、団地っ子の俺達は高校を出ると、あたりまえのように家から離れたもんな。もし俺のブログを見てたら連絡してこいよ。

そんときは笑って話そうぜ。