ブリヂストンがいま北米へ大型投資する理由 | スクランブル交差点

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 総投資額は約825億円、過去10年で最大の投資案件──。

9月、ブリヂストンが大型投資を決断した。しかもその場所は、成長が続く新興国ではない。北米だ。

 ブリヂストンが投資するのは、建設・鉱山車両用の超大型ラジアルタイヤ(ORR)の新工場。

北米サウスカロライナ州エイケン郡に工場を建設、2014年上期の稼働を見込む。

ORRはダンプトラックやショベルローダーなどに使われる特殊タイヤで、

中にはタイヤ1本で外径4メートル、重量5トンを超えるものもある。

■初のORR海外生産へ数十カ国から北米を選択

 今タイヤ業界は「新興国シフト」を急ぐ。ライバルの仏ミシュランは、

20年までに新興国での販売量の倍増を計画。国内勢でも住友ゴム工業が、

タイ工場の生産能力を世界最大規模に高める方針を打ち出している。

新興国の旺盛な内需への対応に加え、輸出拠点としても育成しようというのが、業界の流れだ。

 対照的に北米市場では、ブリヂストン以外に目立った投資の動きはない。

交換用タイヤの販売が7月まで4カ月連続で前年実績を下回るなど、

足元で景気減退の影響が広がってもいる。だが、荒川詔四社長は

「今回の投資には、当社だからこそできるという強烈なメッセージを込めている」と語る。

 ORRの生産には特殊な設備と技術が必要で、世界市場を仏ミシュランとほぼ二分している。

ブリヂストンは下関と北九州の国内2工場でのみORRを生産してきた。

ただ、慢性的な供給不足が続き、新たな拠点作りが課題の一つだった。

円高対策や東日本大震災を受けた一極集中のリスクを回避する必要もある。

 北米はカナダや南米などのORRの需要地に近く、物流面のメリットが大きい。そう考えれば、

北米への投資は驚くべき判断ではないかもしれない。

しかし今回、ORR工場のほかにも約200億円をかけて、北米で一般タイヤ2工場を増強する。

 北米には1988年買収したファイアストンから引き継いだ拠点が多い。

06年にはオクラホマシティ工場を閉鎖、09年にはテネシー州ラバーン工場で人員削減を実施、

乗用車用タイヤの生産を中止するなど、これまではスクラップを優先してきた。

 実は、北米の現地拠点からは、4年も前からORRの新工場の計画が出されていた。

リストラに一定のメドがついたことで、「北米には世界的にも競争力の高い工場が残った」

(生産担当の関口匡一執行役員)。さらに日本流のカイゼンが根付き、

今ならば技術レベルの高いORR生産を移管できるという判断がある。

 ブリヂストンでは、主に地域別に分かれた戦略的事業ユニット(SBU)が

自主性を持って事業を展開している。東京本社は基本的な戦略方針を出すが、

SBUのサポートや調整が主な役割だ。ただし、全社の経営目標として掲げるROA(総資本利益率)6%を、

個々のSBUにも適用したうえで、東京本社はアジアのSBUとは毎週、日米欧のSBUとは月に一度、

テレビ電話会議を開き、販売や在庫状況を把握。

SBUの各工場をおよそ50にもわたる社内指標を使い月次ベースで評価するなど、

グリップは緩めていない。

 SBUは個別に投資計画を立案するが、それぞれがバラバラに投資すれば、

ブリヂストンは単なる膨張体の組織になるおそれがある。

日常的なやり取りをベースに、全体最適を考え東京本社が投資をジャッジしていく。

ORRの生産計画は、中国など他地域のSBUからも出されていた。

世界数十カ所の候補地から、北米エイケンを選んだのだ。

■グローバル化で独走 タテとヨコを強化

 北米新工場のトップは、米国人が務める。特殊設備の多いORR工場にあって、

設備の約8割を現地で調達。さらに投資を20年まで段階的に実施することで、

需要減退があればブレーキをかける準備も怠らない。

 UBS証券の松本邦裕アナリストは「ブリヂストンのグローバル化は10年先を見据えている」

と評価する。国内他社はグローバル化を本格的に開始したばかり。

対して、ブリヂストンはすでに新興国での一定の基盤整備を終えており、

北米増強はグローバル展開の2巡目に入ったことを示している。

 「タテとヨコの広がりがうちの一番の強み」。荒川社長は強調する。

 「タテ」の広がりとは、タイヤ生産だけでなく、原材料工場から販売網まで自社で手掛ける点。

原材料高のリスクヘッジとなるだけでなく、今後は原材料部門をプロフィットセンター化する戦略だ。

 「ヨコ」は、地域的な広がりだ。ブリヂストンの生産・販売拠点は世界全地域に広がっている。

新興国は成長余地が大きい分、競争も市場変動も激しい。

車の保有台数というストックビジネスの要素もあるタイヤビジネスにとって、

安定的な収益源になりうる成熟国の再強化は、新興国リスクへの対応も意味している。

 今週末、ブリヂストンは新しい中期計画を発表する。

そこにはタテとヨコの広がりを意識した戦略が盛り込まれるはずだ。

業界の流れに反する北米への大型投資は、ブリヂストンの自信の表れでもある。

(本誌:並木厚憲 =週刊東洋経済2011年10月22日号)

※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。