2人に1人ががんになる時代だ。働き盛りの現役世代も例外ではなく、職場にがんサバイバー(がん経験者)がいることも珍しくない。特に40~50 歳代に発生のピークを持つ乳がんは外来通院での抗がん剤治療が浸透したこともあり、治療中も仕事を続けるケースが増えている。ただ、治療期間は術後合併症や薬の副作用で体調に大きな波が生じる。治療の段階ごとに就労への配慮が必要だ。
初期治療の手術は、乳房全摘、温存術とも術後の回復が早く、退院後数日で職場復帰する女性もいる。腕や肩に生じる運動障害も数週~1ヵ月間のリハビリで改善し、個人差はあるものの業務への支障は少ない。ただ、リンパ郭清をすると腕のむくみや痛みを伴うリンパ浮腫が生じる場合がある。また、手術側の上肢の免疫力が弱くなるため、手や指の傷から侵入した細菌によって感染症を起こしやすい。指先を傷つけ汚染する可能性がある作業は避けたほうが無難だ。
手術前後に抗がん剤治療を行う場合はもう少し複雑だ。術前もしくは術後1ヵ月目頃から始まる標準メニューでは、3ヵ月~半年のあいだに3週間に1 回、外来で抗がん剤の点滴投与を行う。以前に比較して副作用は格段に楽になったが、点滴当日から2、3日は吐き気や倦怠感に悩まされることがある。脱毛など女性にはつらい試練もつきまとう。副作用が強い場合は短期入院も考えられるので、就労時間の短縮や有休、傷病休暇が必要だ。
しかし、ぜひ理解していただきたいのは、この酷い状態は抗がん剤の「副作用」であり、一時的なものだということ。乳がんと診断された女性は「私にはもう価値がない」などさまざまな負の感情に襲われる。いや、女性に限らず自分の存在価値が脅かされる恐怖は皆同じだろう。その際、本人の納得がないままの配置換えなどは「無用の人間」と追い打ちをかけるに等しい。逆に「仕事が待っている」と思えば、治療に向き合う気力もわいてくる。一時の状態で就労不可と評価せず、治療が終われば元の有能な部下や同僚が戻ってくると信頼し、待っていてほしい。
診断・治療法の進歩で乳がんは必ずしも致死的な疾患ではなくなった。むしろ、治療中やその後の人生への影響のほうが深刻かもしれない。生きがいやセルフイメージを保つために、できる限り仕事を続けるよう勧める医師も多い。社会参加は、乳がん患者にとって、もう一つの治療薬なのだ。