http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20111219-00000301-cyzoz-ent──2010年末より「ジャンプ」の名を冠するマンガ雑誌が急増している。60年代より少年マンガ誌のトップとして君臨する「少年ジャンプ」の内情と共に、現在の「ジャンプ」増刊ラッシュの舞台裏を追った。
「週刊少年ジャンプ」(以下、「少年ジャンプ」)は、いわずと知れた集英社発行の日本一売れているマンガ誌である。1968年の創刊後、70年代以降少年マンガ市場のトップをひた走り、ピーク時の90年代半ばには653万部というマンガ誌の最高発行部数を記録した。しかし、その後は雑誌不況もあり部数は右肩下がり、近年は300万部弱で推移している。とはいえ、ライバルである講談社の「週刊少年マガジン」が153万部、小学館の「週刊少年サンデー」が63万部【※いずれも11年1~3月期】という状況を鑑みれば、今でも圧倒的な部数を誇っていることに変わりはない。
また、「ジャンプ」ブランドは青年向けの「週刊ヤングジャンプ」(79年創刊)や中年向けの「ビジネスジャンプ」(85年創刊)など、数々の派生誌を生み出した。本章では、そんな「少年ジャンプ」と「ジャンプ」系雑誌の裏側を、「ジャンプ」関係者や集英社社員の言葉から読み解いてみたい。
まず、その現場である編集部とはどういうところなのだろうか? 集英社に出入りするジャーナリストによれば、「ジャンプ」系雑誌は、少年誌グループ(「少年ジャンプ」「ジャンプスクエア」「Vジャンプ」)と青年誌グループ(「ヤングジャンプ」「ウルトラジャンプ」「ビジネスジャンプ」ほか)でフロアが分かれているという。「どちらのフロアも体育会系ですが、少年誌フロアのほうが花形部署ということもあり、数字にシビアな気がします」。そう語るのは「ジャンプ」関係者。集英社社員が「結局、ウチの収益は『少年ジャンプ』がほとんど出していますからね。社内では、『少年ジャンプ』を、冗談交じりに『ジャンプさまさま』って呼んでますよ(笑)」と語るように、自他共に「少年ジャンプ」がマンガ事業の柱、というより集英社そのものの柱であるという認識があるようだ。
「『少年ジャンプ』の編集部員は全部で30人ほどで、毎年必ず2~3人の新卒が入ってきます。だから玉突きで同じ人数だけ異動になるんですけど、なにしろ花形部署ですから、みんな残ろうと必死です」(前出の関係者)
事実、集英社の現社長・堀内丸恵氏も「少年ジャンプ」出身で、「少年ジャンプ」編集部は集英社のエリート集団といえるだろう。ちなみに、原則としてほかの編集部から「少年ジャンプ」に異動することはなく、基本的に新卒で配属されない限り「少年ジャンプ」編集部員にはなれないそうだ。前出の集英社社員によれば、『Dr.スランプ』(鳥山明)に登場するマシリトのモデルとしても有名な鳥嶋和彦氏(現専務取締役)が「少年の心がわからないと、少年マンガは作れない」と発言した、という話もあり、編集部員は全員男性で、20代が多いという。「少年の心」とは少し違うかもしれないが、同社員はこんなエピソードも語ってくれた。
「本採用された新人は、組合の前で挨拶スピーチをするんですが、無難にこなす人が多い中で、『少年ジャンプ』の新人は一発芸をします。あと、編集部の部署旅行で、寝ている新人の裸をケータイで撮って、その新人のアドレス帳に入ってる女性全員にメールで送信したりと、内輪で盛り上がっている印象があります」
■単行本が当たるまでタマを打ち続ける!?
そんな「少年ジャンプ」の今の看板作品といえば、97年に連載が始まった『ワンピース』(尾田栄一郎)である。発行部数は、最新64巻が初版 400万部、累計2億5000万部と絶好調ではあるものの、社内では「『ワンピース』が終わったらどうするの?」といった話は絶えないようだ。実際、『ワンピース』に続くヒット作『NARUTO』(岸本斉史)と『BLEACH』(久保帯人)はいずれも10年選手で頭打ち、中堅も伸び悩んでおり、次世代の「少年ジャンプ」を担う新人が出てくる気配もない。
このような状況を受けて気になるのが、10年末からの増刊ラッシュである。07年に、「月刊少年ジャンプ」の新装版として創刊された「ジャンプスクエア」が、創刊号、第2号共に重版がかかり、「ジャンプ」ブランドの健在ぶりをアピールしたことは記憶に新しいが、10年末から11年半ばにかけては、「ガールズジャンプ」「アオハル」「ミラクルジャンプ」「ジャンプ改」と、実に4誌もの新雑誌が誕生している。
加えて、11月には「ビジネスジャンプ」と「スーパージャンプ」が統合されて「グランドジャンプ」となり、その姉妹誌「グランドジャンプ PREMIUM」も12月に創刊予定である。各誌の紹介に関しては、関係者の話と共に、次ページに一覧を掲載しているが、ここに載せられなかったものとして、ほかにも、毎号ひとつのテーマ(創刊号は「歴史」)に沿った読み切りを掲載する「スーパージャンプHigh」やグルメマンガ中心の「まんぷくジャンプ」といった新雑誌も創刊されている。
前出の関係者は、その背景を「将来的に発行する単行本のタマを増やすために、とにかく新たに掲載誌を増やしていこうということでしょう」と語る。
05年にマンガ誌の総販売額が単行本のそれに抜かれたことに象徴されるように、今やマンガ業界では、「雑誌は赤字覚悟、儲けは単行本で」というビジネスモデルが定着しており、それは集英社とて例外ではないのだろう。事実、「雑誌単体で実売として黒字が出ているのは『少年ジャンプ』と『ヤングジャンプ』くらい」(同)だというのだから、単行本を発売するための連載の場として、雑誌を用意するという戦略は理解できる。しかし、この雑誌不況の中で、作家や編集部員の確保など、膨大な手間と費用がかかる雑誌を創刊することは相応のリスクも伴うはずだ。あるいは、集英社にはそれに耐え得る資本があるということなのだろうか? 前出の関係者はこう答える。
「むしろ既存の読者のみでは売れ行きが伸びないので、新しい読者層を開拓しようとあがいているのでは?増刊の指令はどこから出ているのかよくわからないので、実際の詳しいところはわかりませんが、少なくとも現場レベルではそう感じます」
■“外様作家”の起用でサブカル層狙い撃ち!!
こうした中で新創刊された4誌のうち、「アオハル」「ミラクルジャンプ」「ジャンプ改」の3誌は「週刊ヤングジャンプ」の増刊扱いとなっている。しかし、前出の関係者によれば、この3誌の中で純粋に「ヤングジャンプ」編集部で制作されているのは、「月刊ヤングジャンプ」のコンセプトを刷新した「ミラクルジャンプ」のみ。同誌は「少年ジャンプ卒業生に告ぐ。」とうたっており、かつての「少年ジャンプ」読者を取り込みたいという意図がうかがえる。
一方で、「アオハル」と「ジャンプ改」は、従来のジャンプブランドのイメージとはほとんど接点がない。象徴的なのが、集英社ではない出版社でヒットを飛ばした経験のある“外様作家”の大々的な起用である。
もともと「少年ジャンプ」は、「少年マガジン」および「少年サンデー」(いずれも59年創刊)の後追いで創刊したため、先行する2誌に有名マンガ家を抱え込まれてしまっていたという経緯がある。ゆえに、自前で新人を発掘・育成しなければならなかった。それが結果として、「アンケート至上主義」に基づく徹底した打ち切りと、空いた連載枠を補完するために新連載を投入する「新人登用システム」および、契約期間中、作家に1年間他社の媒体での連載を禁止する「専属契約制度」へとつながり、気鋭の新人による超人気マンガの輩出へと相成った。そのならわしはほかのジャンプ系雑誌にも少なからず根付いていたが、現在では、それが大きく覆ったというわけだ。
まず「アオハル」は、『ニコイチ』(スクウェア・エニックス)の金田一蓮十郎や『たいようのいえ』(講談社)のタアモなど、コアなマンガ読みが注目する作家で固めるとともに、画像投稿サイトpixivで人気のちょぼらうにょぽみといったネット界隈の作家も吸い上げている。従来のジャンプ作品とはあまりに毛色が違うため、「編集部内でもあまりよくわかっていない人間がいるのでは」と言う関係者もいるほどである。そして「ジャンプ改」は、『のだめカンタービレ』(講談社)の二ノ宮知子を大看板に据え、コナリミサトといった女性マンガ誌からの作家登用も多い。
集英社には、硬派なマンガを掲載して根強い人気を誇る「アフタヌーン」(講談社)や「スピリッツ」(小学館)に相当する雑誌が存在せず、「アオハル」と「ジャンプ改」でそうしたマンガ好きの読者を引き込もうとする思惑が見える。つまり、「ジャンプ」ブランドを生かして、新たな読者層の開拓に舵を切ったのだが、これをやられると他社はたまらない。
「集英社みたいな大手がコミケやネット界隈にまで踏み込んできたら、僕らは太刀打ちできませんよ」
そう語るのは中堅出版社の青年マンガ誌編集者。また「ジャンプ改」は、祥伝社発行の女性マンガ誌「フィール・ヤング」などを担当するマンガ専門の編集プロダクション・シュークリームが編集協力をしているのだが、ある女性マンガ誌編集者は不快感をあらわにする。
「シュークリーム経由で、『フィール・ヤング』などで活躍しているマンガ家にどんどん声がかかっている。マンガ家も『ジャンプ』ブランドには弱いでしょうから、作家の流出を防ぐ手立てはないでしょうね」
■なりふり構わず売れる作家を獲りにいく!?
この「ジャンプ」らしからぬ振る舞いには賛否両論あるだろうが、“外様作家”起用の兆候自体は「ジャンプスクエア」からあった。同誌は『テニスの王子様』(許斐剛)や『To LOVEる』(作:長谷見沙貴 画:矢吹健朗)など「少年ジャンプ」人気作の受け皿となりつつ、他方で藤子不二雄(A)や新條まゆといった"外様作家を起用した革新的な雑誌でもあったのだ。加えて、「ヤングジャンプ」が08年に『ローゼンメイデン』(PEACH-PIT)を「コミックバーズ」(幻冬舎)から引き取ったことも大きかったという。前出の関係者は「この移籍は社内的にも評価が高かった」と当時を振り返る。このあたりから、編集部員の「新人を当ててナンボ」という意識が薄らいでいったようだ。
そして、もうひとつの新雑誌「ガールズジャンプ」も“外様作家”を大々的に起用した「ジャンプ」で、「ジャンプ改」と同じく編プロのシュークリームに実務を委託している。「知名度のある作家を起用したほうが、新人を育てるより楽だし、ヒット作を出すのに手っ取り早い。外部の編プロを使って売れるものができるなら、それでいいんじゃないですか」と、前出の関係者はこともなげに言うが、実のところ、本命は単行本とはいえ、昨今の増刊の売れ行きは軒並み振るわなかったそうだ。
「それでも、会社としては今後も増刊を続ける方針じゃないですかね」(同)
鳥嶋専務は10年に、「少年ジャンプ」の原点は「新人の新連載」であると発言している(「創」10年2月号)。また、「今のマンガ雑誌の数は多すぎると思っています。適正なのは半分くらいでしょう」(同)とも。その言葉に反するように、「ジャンプ」系雑誌が次々と創刊されている現状を見ると、関係者の「あがいている」という表現にも説得力が出てくるのではないか。果たして昨今の「ジャンプ」系雑誌の増刊ラッシュは、お家芸である新人育成に行き詰まった「ジャンプ」系雑誌が、雑誌不況のあおりから、手早く収益の見込める大物作家を起用するという戦略転換を行った証左なのだろうか?
05年にマンガ誌と単行本の販売額が逆転したことは既に述べたが、出版科学研究所のデータによれば、10年のマンガ誌の販売額は1776億円、単行本は2315億円と、その差は開き続けている。しかも単行本の販売額も05年以降緩やかに落ちてきていて、雑誌の落ち込みは、歯止めがかからない状況である。そんな中で、マンガ誌の新創刊を繰り返し、ひとり気を吐く集英社は、雑誌不況の救世主となるのか、それとも減少を続けるパイの独占企業となるのか。今後の動向を注視していきたいが、「少年ジャンプ」を有する集英社でさえ策を弄さなければならない現状が、今のマンガ市場の厳しさを物語っているといえるだろう。
(文/須藤 輝)