12、春ー4
そして・・。
ジュリは天使学校を卒業すると、早速『迎天省』という部署に配属された。
『迎天省』それは、名前どおり魂を迎えに行く部署である。
朝、天使のマネージャーは、エミやレナ、そしてジュリを前に指示を飛ばしていた。
「ええと、ジュリさんの今日のお迎えは、田中政治さん。かつて政治家だった人。汚職をした疑いがあるんだけど、上手く逃げたらしい。ひょっとして地獄行きを恐れて拒否されるかもしれないけど、とりあえず頑張ってお迎えに行くこと」
「はい・・・」ジュリは一気にブルーになってしまった。
「次、レナさん」
「はい」
「レナさんは、飯沼隆さん。飯沼さんは一見とても真面目な人だけど、結婚詐欺の実績があります。これも拒否可能性大」
「はい・・・」レナもジュリ同様に、一気にブルーになった。
「エミさん」
「は、はい」
「エミさんは・・・赤ちゃん。高野玲ちゃんと言う女の子。生後7ヶ月だから、丁寧に扱う事」
「はい!」
エミは、自分の今日のお迎えが赤ちゃんと聞いて、大喜びした。
そして3人はそれぞれ東京の街へと飛び立っていった。
夜遅くの東京のある街角で、ジュリとレナは合流した。
「レナどうだった?」
「だめ、騙された・・・家で奥さんの顔見てから行くって言って、そのまま逃げられた」
「さすが詐欺師・・・」
「ジュリは?」
「だめ、まわりに怖いボディガードのような霊がいて・・・」
「さすが政治家・・・」
「って事は・・・今日はエミちゃんだけが任務完了か・・・」そう言って二人ともうなだれていると、暗闇の中から「そんな事ないよ」と言って、エミがやってきた。
よく見ると、エミは背中に泣きじゃくる赤ちゃんを背負っていた。
「うわああん!」
生後7ヶ月の赤ちゃんの霊は、物凄い泣き声をあげていた。
「こんなに泣かれたら、天使界に連れて行けないよ・・・」エミはそう言いながら困り果てていた。
「どうしよう。赤ちゃんが泣きやむまでちょっと休憩する?」レナがそう言うと、ジュリは左手の白いGショックの時計を見つめた。
「まだ7時か・・・っていう事は・・・」ジュリがそう言うと、レナとエミは笑って「おばさんに会いに行こう!」と言った。
そして3人は寮母さんの家へと飛んでいった。
しかし3人がやってくると、天使寮はえらい事になっていた。
「ああ、忙し、忙し!」
寮母さんは、忙しそうにそう言いながら走り回っていた。
3人は、その寮母さんの姿を不思議そうな顔で見つめていた。
いつも暇そうにお菓子ばかりポリポリと食べていたのに、これは一体・・・。
「あ、あんた達!ちょ、ちょっと手伝って!」
「おばさん、一体どうしたの?」ジュリがそう聞くと、寮母さんは「食堂見な!」と言った。
食堂の扉を開くと、なんとそこには二十人程の天使候補生がいたのだ。
そしてみんな一斉に「先輩こんばんは!」と言って、笑顔で挨拶をしてきた。
「おばさんこれは一体・・・」
「あんた達が大活躍したおかげで、今年度は人間界への留学が大流行なんだよ。おかげで3キロも痩せたよ。総裁に言っておくれ。人増やせって」
ジュリはそんな寮母さんの姿を、ほほえましく見つめていた。
それから一年の月日が流れた。
天使議会では、ある改正法が可決され、壇上の議長は軽く咳払いをすると改正内容を読み上げた。
天使法第27条、第6項目の改正。
死の定義
死とは、心肺が停止した状態の者の事を言う。よってこれに該当しない魂は生霊といい、天使界に導くことは出来ない。
しかし、その魂の体自体に意識がなく、機器等により人工的に生命が保たれている場合、天使倫理委員会の元で、その判断を行う。
この法改正により、今後脳死者の魂は、天使界へと導く事が可能になった。
天使法の法改正はなんと60年ぶりの事であった。
これはジュリ、レナ、寮母さん、エミ、いや・・・その場を打ち破ろうとするいろんな人の汗と涙の結晶であった。
そして東京の街に再び春の季節がやってきた。
「菜月、あれから一年だな・・・菜月の残してくれたワッフルのお店も、順調だよ。菜月、後何十年かしたらオレもお前の側にいくからな・・・」
恭介はそんな事をいいながら、せっせと菜月のお墓の掃除をしていた。
そして一通り掃除を終えると、お花とお線香そして、ジュリが残した『天使のワッフル』を墓前に捧げ、手を合わせた。
ふと何かに気付いて空を見上げると、白い服を着た女性が、美しい翼を広げて優雅に空を飛んでいた。
それは左手に白いGショックをはめた天使だった。
そしてその天使が飛び去った後、恭介の手の平に一枚の羽根がヒラヒラと舞い落ちてきた。
恭介はその一枚の羽根を手に取ると、晴れ渡る東京の青空を見上げた。
おわり