3、キャッチャーの魂(4) | フォーエバー・フレンズ

3、キャッチャーの魂(4)

そしてクリスマスイヴ・・・。

恵は朝から調理室で野球部のクリスマスパーティー用の食事を作っていた。

恵の料理の腕を知った陽一からのお願いだった。

手馴れた手つきを見て、恵の傍にいた仁科先生は感心してしまった。

「山野さんて本当に料理が上手いのね・・・」

料理が全く苦手な仁科先生は、自分が情けなく感じてしまった。

恵は「先生ちょっとこれ味見して」と言って、仁科先生に小さな皿を差し出した・

仁科先生は味見をすると、不思議な味を感じた。

甘くもなくて辛くもなく、まるで計りで計算したかのように正確で、そして誰もが幼き日母に作ってもらった味を思い出すような味だった。

「美味しい・・・」

そんな仁科先生の褒め言葉をよそに、恵は黙々と料理を作り続けた。

恵の作った今日のレシピ。

『蛸のカルパッチョ』

『若鶏のカシューナッツ炒め』

『イカスミのパスタ』

『豚の角煮』

『レタスチャーハン』

そして最後、得意料理の『筑前煮』・・・・

それらを山盛り作り終えると、部室のテーブルに仁科先生と一緒に並べていった。

恵は料理を並べ終え、エプロンを外すと「先生、私が作ったって事言わないで」と言い出した。

「どうして?みんな山野さんの事褒めてくれるわよ」

「照れくさいんです・・・」

「どうして?」

「なんか出しゃばってるみたいで・・・」

恵は陽一とは密接に関わってきたが、不思議と今まで野球にはあまり深く関わらなかった。

なので今さらしゃしゃり出たくなかったのだ。



そして遂に野球部の部室でクリスマスパーティーが開催された。

茜は真に連れられて野球部の部室にやってきた。

「ようこそ!スカジョさん」部員はそう言って、茜を大歓迎で出迎えた。

すると茜は、笑顔で「みんな、今日は誘ってくれてありがとう」と言い、そして部室の隅に立っている恵を見つけると「恵、遊びに来たよ」と言った。

「茜、いらっしゃい」

茜は最近恵の学校が羨ましく思えていた。

スカジョは規則でがんじがらめであり、部室でパーティーなんて絶対に出来なかった。

でも港南はその点は自由だった。

そしてこの楽しそうな部員達・・・。

「恵・・・私、やり直せるならこの学校選ぶなあ」と寂しげに言った。

それは恵にとって以外な言葉だった。

「横須賀女子はみんなの憧れだよ」

その恵の言葉に、茜はゆっくりと首を振った。

「学校が楽しくないんだ・・・最近私、何のために学校行ってるかなって思ってしまうんだ・・・



テーブルに並べられた恵の作った料理を食べるとみんなが舌鼓を打った。

文麿は真っ先に「美味い!これ、どこで注文したんだよ?」と言った。

「うめえな」真も、文麿と同じようにそう言った。

仁科先生は本当は恵が作ったと言いたかったが、恵との約束を守る事にした。

デ・・・デパ地下で買ってきたのよ」

「だからかそりゃ美味いはずだぜ」

恵は、美味しそうに料理を食べる部員達の表情を、部室の隅でずっと見ていた。

そしてその表情を見ると、とても嬉しい気持ちになった。



人から美味しいと言って食べてもらうのって嬉しいなあ・・・。

私、料理の仕事やってみようかな・・・。



恵はふとそう思った。



そして待ちに待った劇が始まった。

題名は『車椅子の天使』と言い、主演、脚本、演出は由香子だった。

話の内容は、歩けない車椅子の少女が、沢山の人からいじめられる。

しかし車椅子の少女はそのイジメに負けずに、頑張って生きていきやがて素敵な人とゴールインするという話だった。

そして真は由香子の相手役に抜擢されたのだった。

「私・・・みんなからいじめられる・・・私もうこんな世界で生きていけない!」

由香子のそのセリフに一同シーンとした。

現実は全く逆だった。

司は「由香ちゃん・・・そのセリフ僕が言いたいよ・・・」と思わず言ってしまった。

真は笑いそうになりながらも「何を言ってるんだ!俺が君を誰からも守ってみせる!だから・・・だから・・・一緒になろう」とベタな演技を続けた。

「私こんな体だよ?駄目だよ・・・もっと幸せに生きてよ・・・」

「君の心が好きなんだよ。君無しの幸せなんてありえないよ」



もう全員が噴出しそうになっていた。



そのクリスマスパーティーの帰り、茜は真と一緒に電車にのって帰った。

「あははは。もう噴出しそうだったよ」茜は由香子の劇を思い出すと、再び笑いが込み上げてきた。

「だろ?俺練習中に何度も笑っちまってさあ。本番は笑わずに最後まで演技したんだから大したもんだろ」

そう言うと二人は電車の中で、爆笑してしまった。



金沢八景駅を降りて二人で歩き出すと、真は「茜、渡したいものがあるんだよ」と言い出して、かばんを開けた。

「何?真」

茜が興味津々な気持ちでそう言った時、茜の母親がやってきた。

「茜!」

「ママ・・・」

茜の母親は手を掴んで、茜を真から引き離した。

そして真に「ウチの茜に付きまとわないでくれる?」と言った。

「大体あなた港南の子でしょ?そんな子と茜を付き合わせる訳にはいけませんから」

「ママ!なんてこと言うの!真に謝って!」

茜は母親に食って掛かったが、真はずっと黙っていた。

「いい?今後茜とは会わないで!わかった?」

真はしばらく黙っていたが「わかりました・・・すみません」と言って頭を下げ、その場から去っていった。

「真!待って!」

茜は去り行く真の背中を追いかけようとしたが、母親が力づくで阻止した。

「真!真!」

茜は何度も真の名前を呼んだが、真の姿は暗闇の中に消えていった。



川崎の自宅に帰った真は、ずっとベッドに寝転んで考え事をしていた。



やっぱりこんな事になったか・・・。

最初に予想した通りだ・・・。

俺、茜に迷惑かけてるかもしれないな。



すると理子が部屋に入ってきた。

「おにい、どうかしたの?」

「なんでもねえよ」

「だったらいいんだけど・・・」

「そうだ、これお前にやるよ。俺からのクリスマスプレゼントだ」と言って、茜に渡すはずのプレゼントを理子に渡した。

「えっ?おにいが私に?珍しい」



そしてその日の晩、茜は真の携帯に何度も電話したが、真が電話に出る事はなかった。


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