13、まけるもんか(6)
3球目もボールだった。カウントは1―2。
真は次の球が勝負になると感じた。
そして真は「負けてたまるか」と言って、バットを大きく構えた。
ピッチャーはもうワインドアップで投げ、真との一戦に全てを賭けた。
そしてピッチャーが全力で投げた4球目を、真の体が獲物を捕らえたように反応し、ジャストミートさせた。
そしてカキーンという音とともに、ボールは一二塁間を抜けていったのだ。
ミュートを解除したかのようだった。
甲子園には「ワー!」という大歓声が蘇ってきた。
3塁ランナー文麿は楽々ホームインし、そしてセカンドランナーの修二は、サードベース付近までやってきた。
ランナーコーチの司はここで迷った。
ホームを狙うには微妙なタイミングだったが、次のバッターの速見は、もうバッターボックスに立つ力は残っていない。
司は賭けに出た。
「修二君!回れ!」司はそう叫んで、右手を高らかに上げながら、大きく回した。
修二は3塁ベースを回って、ホームへと全力疾走で駆けて行った。
しかしライトから、好返球が返ってくる。
修二は懸命にホームへと飛び込んでいった。
それと同じタイミングで、大河内のミットにボールが納まった。
そして大河内と修二が、ホームベース上で激しく接触した。
完全なクロスプレーとなり、激しく砂煙があがった。
それは2、3秒の事だったが、ものすごく長く感じた。
主審は、右手を上げて「アウト!」と叫んだ。
この瞬間、淀商の夏の大会連覇が決まったのだ。
そして淀商の選手達がマウンドへと駆け寄って、喜びのあまりもみくちゃになった。
港南学院は死闘の末、敗北した。
ホームベース上で修二がうずくまったまま立ち上がらないので、陽一は心配になってホームベース上まで走っていった。
すると修二は嗚咽する程泣いていたのだった。
「徳永さん、すみません。俺・・・やっぱりワンテンポ遅いんですね・・・」と涙ながらに言った。
「修二・・・」陽一はそんな修二を見ると「そんな事ないよ・・・ナイスランだよ」と言って修二を抱き起こした。
そして「さあ行こうか」と言って、陽一は大声で泣く修二に肩を貸し、ベンチへと帰って行った。
港南学院の選手は、マウンド上で喜び合う淀商ナインをずっと見ていた。
やがて司が泣き出して「監督すみません僕がGOサイン出したんです」と言った。
すると修二も泣きながら「違います・・・僕がワンテンポ遅いんです」と言った。
さらに文麿まで泣き出す始末だ。
古屋監督は「お前らうるさい!」と一喝した。
「結果論ばかり言うな。負けたんだから仕方ないだろ。もう泣くな。お前達これからフィールドに出て、応援してくれた方に礼を言え」と言い、さらに仁科先生に「先生、この子達をアルプススタンドの前へ連れて行って欲しい」と言った。
しかし仁科先生は「古屋さん、私は何もしていません。監督が行ってください」と言って固辞した。
すると古屋監督は「私は彼らに野球技術を教えただけ。この子達はあなたの教え子だからあなたが行きなさい」と言った。
そして最後に選手達に「このベンチからフィールドに出た時、お前達は本当の野球の意味を知る。野球は決して勝ち負けだけが全てじゃない」と言って、古屋監督はロッカールームへと消えていった。
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