3、速見の夢(1) | フォーエバー・フレンズ

3、速見の夢(1)

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(c) yuki写真素材 PIXTA

朝の京急線、真は珍しく定刻通りの電車に乗っていた。

満員電車の嫌いな真は、いつも1時間程遅刻して学校へ通っていた。

だが昨夜茜が「一緒に学校に行こうよ」とメールしてきた為、真はしぶしぶ定刻通りの電車に乗った。

金沢八景駅に電車が到着すると、三つ編み姿の茜が電車に乗り込んできて「真君おはよう」と言った。

真は茜のその姿に少し驚き「なんで三つ編みなんだよ」と言った。

「学校がうるさいの。髪の毛が肩にかかると三つ編みにしなきゃいけないんだ。学校終わったら髪型変えるけどね」

「さすがスカジョ」

「ねえねえ、聞いた?陽一君また野球するんだってね。昨日恵からメールがあったよ」

「そうなのか?」

「真君もやりなよ」

「俺はやらねえ」

その時茜は、真の胸ポケットにタバコが入っているのを発見した。

そしてそのタバコをサッと取り上げた。

「何すんだよ」

「タバコ吸ったらだめ。これは取り上げ」と言って、茜は真のタバコを自分の鞄の中へ入れた。

「細かい事言うなよ」

「ダメ。それと遅刻ばかりしてるそうじゃん。明日からこの電車で一緒に学校行こうね」

「わかったよ・・・」真はしぶしぶそう言った。

既に茜は、真の事を尻に敷いていた。

港南学院高では無敵の真も、この横須賀女子高の茜には頭が上がらなかった。

そしてこの日を境に真は禁煙し、遅刻もしなくなった。



放課後、野球同好会の部室の扉が、ガチャッと音たてて開いた。

部室を掃除していた司は、その音に気付き振り返ると、入り口に立っていた陽一を発見した。

陽一が「あの・・・入部したいんですけど」と言うと、司はニッコリ笑って「いいよ。じゃあここに座って待っててよ」と言って、陽一の為にパイプ椅子を用意した。

部室内は綺麗に片付いていて、壁には甲子園優勝の記念写真らしきものが、何枚かかけられてあり、そして部室の奥には、かつての栄光を彷彿させるかのようにバッティングマシーンや、ベンチプレス等が並べられてあった。

陽一がそれらをじっと見ていると、司が陽一に話し出した。

「全て栄光の遺産だよ。夏の甲子園22回出場で優勝3回、選抜大会18回出場で優勝2回・・・だけど今はたった3人の同好会だよ」

陽一は司に「どうして港南はこんな事になったんだ?」と質問した。

「3年前に監督が変わって、新しい監督が就任したんだけど、その新しい監督の暴力事件が原因で、主力選手が一斉に他所の学校へ編入してしまったんだよ。それで一気に衰退していったらしいんだ」

「暴力事件だけでここまで崩壊したのか?」

「マスコミが騒ぎ立てたんだよ。それで部員も不信感を抱いて辞めていったみたいなんだ。まあ僕はいなかったから真相はよく分からないけど・・・あっごめん、まだ自己紹介してなかったね。僕は2年A組の原司って言うんだよ。君は?」

「2年C組の徳永だよ。仙台学園から編入してきたんだ」

「えっ!あの仙台学園?ひょっとして野球部だったの?」

「うん」

「そりゃ凄いや。速見さん喜ぶよ」

陽一はその『速見』と言う名前に、聞き覚えがあった。

「速見って・・・もしかして港南学院中学の速水さんか?」

「そうだよ。港南学院中学出身の速見さん。野球同好会のキャプテンだよ」

すると扉が再び開き「ういーす」と言って、主将の速見が部室へ入ってきた。

そして陽一と速見はお互い顔を見合わせた。

速見は驚いて「お前・・・徳永か?鎌倉シニアの徳永だよな?」と言った。

「速見さんですよね」陽一も突然の再会に驚いた。



実はこの二人は、中学時代に一度顔を合わせた事があった。
それは3年前、中学硬式野球の南関東大会の準決勝で、陽一の鎌倉シニアと速見の港南学院中学が対戦した時であった。
速見は左投手で、スクリューボールを得意としていて、陽一は、7回までこの速見のスクリューボールを全く打てなかった。
しかし陽一は、8回に速見のすっぽ抜けのスクリューを捕えた。
打球はレフトライナーのような当たりだったが、そのままグングン伸びて行って、そのままスタンドインしたのだった。
これが決勝点になり鎌倉シニアは見事決勝進出を果たした。

速見と陽一は3塁側ベンチに腰掛けながら、その時の思い出話で盛り上がった。
「俺、お前に打たれたのを、昨日のように覚えているんだ。最初レフトライナーだと思ったんだけど、それがそのまま伸びて行くんだもんな・・・あれは中学生じゃねえよ」
「俺だって覚えていますよ。とにかく速見さんのスクリューが打てなくて」
「くやしかったよ。今度あったら絶対に打ち取ってやると思った」
「ところが同じチームですね」
するとふたりは苦笑した。
「これでお前を入れて4人の野球部になった。でも、俺はもう3年だよ。あと3ヶ月で俺の野球も終わりだ。結局高校時代まだ一試合もしてないよ」
陽一は、速見が少し哀れに思い下を向いた
「そうだ徳永、俺の球を受けてくれないか」
「いいですよ」

8のリストバンド

二人はブルペンに行って軽くキャッチボールを始めた。

そして速見は肩が温まってくると「徳永いいぞ。座ってくれ」と言ったので、陽一は速見に向けてキャッチーミットを構えた。
速見は、ワインドアップのゆったりとしたフォームからは想像できないほど、速く左腕を振り下ろした。
するとズバーン!とキャッチャーミットが大きな重低音を放った。
その後も135キロ程の重いストレートが、キャッチャーミットを目がけて飛んできた。
そしてその度にズバンと鈍い音がグランドに響き渡った。
「いい球だ・・・本当にいい球だ」と陽一はつぶやいた
「徳永、次スクリュー行くぞ!」
「はい」
速見はゆったりしたフォームから、ストレートとまったく同じフォームでスクリューボールを投げた。
チェンジアップ気味に飛んできた球は、やがてススッとシュートしながら落ちてきた。
それはキャッチャーの陽一ですら、タイミングが外れてバックハンドでなんとかキャッチするほどのキレの良さだった。
「すげえ・・・何も変わってない。それどころかキレが増している・・・」


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