一般的にアスリートが良いパフォーマンスを生む為には 3つの要素が必要だとされている。
それは、「フィジカル」「テクニカル」そして「メンタル」だ。

これを日本流に言えば 「心技体」だろう。

そのうち、練習でスキルアップできるものは「フィジカル」と「テクニカル」だと思っている。つまり「技」と「体」であろう。

だが、果たして「メンタル(心)」は如何にして向上させられるのだろうか。いつもその壁に直面してしまう。

野球に限ったことではない。スポーツ中継を見ていれば「あとは気持ちです」とか「大事なのは気持ちです」などと、何かと「気持ち」は耳にする言葉である。しかし、そう簡単に気持ちはコントロールできない。実に難題である。

ある大学野球部の選手達に 「試合で勝つ為に 大切な事は?」と質問したところ、6割以上の選手が「気持ちです」と答えた。

「では その気持ちを強くする練習は いつ しているのか?」と私が聞き直すと 選手達は黙ってしまう。

上位の大学野球の選手たちは1日24時間のうちリーグ戦前ともなれば夜間練習も含めて 10時間ぐらいを練習に費やす。その10時間の中で心を鍛錬する時間はどのくらい割いているのかと問いかけても学生達はうつむくばかりである。

まっ、これは私の質問が意地悪であって、おおよそ大学の4年生になっても練習中に、「今、この時間は 気持ちや心を強くしているのだ」と自覚して練習している者などいない。どだい、私の質問に答えられるハズなど無いのだ。

しかしこれは大学生に限った話ではない。プロ野球選手もまたしかりである。

彼らも「気持ちが大事」と口では言いながら2月のキャンプ中などでもメンタルを鍛える時間は用意していない。ただひたすらフィジカルやテクニカルを向上させる為の練習に明け暮れるのだ。ひとつも時間を割かないのに、試合で勝つ為には「気持ち」が一番大事だなどと言うのだから 言ってる事とやってる事につじつまが合わない。

評論家の皆さんの中にもやたらとメンタルの重要性を説く人が多いのだが、ではどうやったらそのメンタルは強くするのか、方法論も論じて欲しい。

そんな中、金本監督は現役時代、燃え盛る炎を前にして長時間読経する「護摩行」を行っていたことで有名だ。これは立派な精神修行であると私は理解している。今ではカープの新井も行っているが 極めて大変な「行」であろう。

護摩に限らず、精神修行には、滝に打たれたり、座禅を組んだり、私の知らないような「行」も たくさん あるのだと思う。効果のほどはわからないが、こういった行に時間を割くことがメンタルを強くするための時間の費やし方ではないだろうか、とも思う。

一方で、残念ながら広く一般的な野球の練習では 気持ちすなわちメンタルは 強くはならない。そもそも、野球はスポーツであって、精神修行であったり、精神力を鍛錬する「行」などではない。

スポーツとは、コミニュティへの参画や教育、そして人間形成には大いに役立つのだが 精神力を向上させる、という目的にはあまり適さない。

もちろん、少しでもエラーしないために苦しくてもボールを追いかけたり、良い場面で打てるようにと、血マメができてもバットを振り続けたり多少、辛抱強くなることはあるだろう。しかし野球のようなスポーツを続けることで効率よくメンタルが強くなっていくか、というと決してそんなことはないというのが私の持論である。

護摩行で精神鍛錬をしていた金本監督ですら現役時代、バッターボックスで足が震える事が多々あったと話していた。ゴルフの松山英樹も一見精神力が強そうに見えるが、大事なパットでは手が震える、と話している。

このことからわかることは、しょせん人間なんて誰しもそんなに強くない、ということだ。こう考えると、弱いからとか、緊張しやすいからダメということではないのだ。

要はいくら足や手が震えても 良いパフォーマンスができるか?ということに尽きるのではないか。

世の中、強がってる人は多いが、本当に精神力の強い人など高僧ぐらいのものだろう。たとえ心が弱くても あるいは緊張しやすくても 自分の力を発揮できるアスリートを目指す、これこそが練習の主目的である、と私は考える。

緊張しているからこそできる事がある。逆に緊張していないとできない事は多い。若いアスリートの人たちには弱いからと諦めることなく、緊張したままでも自分のパフォーマンスを発揮してほしい。


さて、今週のタイガースだが 率直に強かった。

特に攻撃陣の繋がりがチームに勢いを与えた。ベテランから若手まで 1番打者から8番打者まで それぞれの果たすべき役割を果たした。

今の状況を見るに、この流れや勢いが失速することがあるとしたらそれは交流戦だけだろう。つまり、交流戦を上手く乗り越えられたら「優勝」の2文字が見えてくる、ということだ。

実のところ、優勝にはそれはそれは簡単にはいかない優勝もあれば、「えっ?それで優勝しちゃうの?」というくらい簡単にできてしまう時もある。

振り返れば昨年の日本ハムは激戦に激戦を経てシーズン終了後、身心ともにクタクタになりながら優勝したのに対し、2015年のソフトバンクは特に波乱もなくあっけなく優勝した。

金本監督 率いるチーム初めての優勝が 安産な優勝という事も十分に考えられる。そこまで言えてしまう根拠は何かと問われれば、それは個々のレベルアップだろう。ベテラン勢は 予想以上の活躍をし、進化を続け、そして若トラ達は着実に成長した。ベンチで待機する選手もレギュラー組と遜色なくなっている。

投手では メッセンジャーが抜群の安定感を見せ、秋山が著しく成長し、そして、マテオやドリスの勝利への継投は 見ているものを安心させる。これだけの要因が重なれば、貯金も増える一方だろう。

そしてなんと言っても 私は今季の中谷の成長に驚いている。今まで 鳴かず飛ばず的なところはあったが 今シーズンの彼のプレーからはアグレッシブさが伝わる。昨年までの彼のイメージは 暖簾に腕押し、ぬかに釘、という感じだったが今年は何かが彼を確変させた。

タイガースにとって待望の右打者が誕生した。このまま頑張れば 規定打席にも到達できるかもしれない。カミネロから打った本塁打は 彼の前途洋々たるものが見える。
 
ただ好事魔多し、ケガだけはしてくれるなと願うばかりである。