私は 1985年にヤクルトスワローズに入団した。念願だったプロ入りだが なんと このチームが弱いこと弱いこと……。

85・86年と連続最下位だった。19年間のプロ生活の中でBクラスが 11度、最下位も4度あり、後の2回の最下位が タイガースに移籍した2000年と2001年だ。ただ、リーグ優勝も4回、経験している。

スワローズもタイガースも最下位からスタートし、リーグ優勝まで駆け上った。従って、弱いチームの雰囲気も分かるし、強いチームの雰囲気も分かる。

現在のタイガースは 言うまでもないが最下位の雰囲気だろう。ただ、昔のスワローズやタイガースの最下位だった頃は 戦力も他のチームとは圧倒的に劣っていたし、お客様さんも疎(まば)らだった。

淡々と試合が流れ、勝てる雰囲気もなく、終わってみると負けていた。

こんな時のチームの雰囲気は 相手に先取点を取られた時は 「今日も 負けたな」という心理になり、反対にリードしている時は 「いつか、逆転されるのだろうな」という心理になる。

7・8・9回で同点の時は チャンスで自分が打席に入る事を嫌がり、ピンチで自分に打球が飛んで来ないように願ってしまうものだ。

現在のタイガースの雰囲気は あくまで 想像の域を超えないが おそらく こんな感じだろう。

エラーが多いのも 「自分の所に飛んで来るな」という心構えでは 上手くゴロを処理できるハズもない。

また、チャンスで「自分の所に回って来るな」という心理では 打てるハズもない。

プロと言えど 人間である。人間は そんなに強くない。「強い気持ち」「強い気持ち」と連呼しても そう簡単には 強くなれない。

9月に入り、チームの成績も見え、また、個人目標も無くなれば尚更である。

こんな時、「来季に向けて」という言葉がちらほら聞こえ出すが そもそも 来季の構想に自分が入っているのかと不安な選手もいる。

そんな中、まだ若い選手は 切羽詰まる事もなく 結局「来季に向けて」と意気込んでいるのは監督だけ。こんな雰囲気こそが典型的な最下位のチームだ。

タイガースは そこまで 酷くはないだろうが これに近い雰囲気なのではないか。

チームがこういう状況に陥った時、選手に必要なのが「成功体験」である。どんな小さな事でも良いから成功を体験する事である。

失敗ばかりして自信を失った選手に必要なのが「成功体験」で これを経験させてやるのが指導者だ。

上本を見ていると その事を強く感じる。

もともと、守備の下手な選手ではない。なのに一つのエラーから自信を失い、今では あんなに守備の不安定な選手になってしまった。

9月17日のベイスターズ戦、8回 表、1死 1塁、宮崎のセカンドゴロを上本が後逸した。

これが試合を決定付けるエラーとなり タイガースのBクラスが決定した。

上本の性格は 真面目で努力家だ。こんな選手ほど 負のスパイラルに入りやすい。

前途洋々たる素質を持っていた選手がちょっとしたミスをしてしまい、その事を引きずり 泣かず飛ばすで選手生活を終えてしまう事もこの世界には多々ある。

このままでは 上本にもその可能性がある。

練習の時は 上手くゴロをさばくのに 試合になると単純なミスをしてしまうのは 間違いなくメンタルの問題だ。

気持ちの弱い選手は ダメだ、と言っている訳ではない。実はこの世界、気持ちの弱い選手の方が一流選手に多い。

私が見てきた一流選手の多くは「大胆かつ繊細」である。

大胆だけでもダメ、繊細だけでもダメなのだが、プロ入りした時に両方を兼ね備えている人間など少ない。

どちらかを持ってプロ入りするのだが、たいがいのケースで「大胆」な選手は 繊細になれないが「繊細」な選手は大胆になれる。

ゆえに もともと気持ちの弱い選手の方が一流選手に多い訳である。

上本には 早く「 大胆さ」を身に付けて欲しいと願っている。

まさに今、上本には 批判が集まっていると思う。本人の耳にも入ってくるだろう。

上本が このような状況から抜け出すためにも早く成功体験を積んで「大胆さ」を身に付けることが大事なのだ。

上本が、試練を乗り越えて素晴らしい選手になってくれると私は信じている。