6作目3章3節(3/4) | のんびり短編小説ブログ

のんびり短編小説ブログ

まったり自作の短編小説を投稿してます。
投稿には間があくかも・・・
ニコニコ動画好きなので、気に入ったものを紹介しています。
その他にも、映画・音楽・アニメ・マンガ・小説等好きな作品をご紹介。
テーマ「一覧を見る」をポチすると見やすいと思います。



 お香の匂いが鼻をつき、頭に響いた。せみがうるさいほど鳴いて喧しかった。木組みの天井がすぐそこにあった。複雑に合わさった構造が見ていて飽きなかった。ここはお寺か、とそのときになって思った。地べたに布団が敷いてあり、ぼくはそこへ寝かされていた。

 住職は出会ったときに比べて、ずっと真剣な顔つきだった。

「こういうことはよくあるのかね」と言った。

「いえ、初めてです」とぼくは答えた。

 起きようとすると、まだ寝ていなさいと言われた。ぼくたちは鉄塔からここまで戻るのに恐ろしく時間がかかった。ちえさんに迷惑をかけないようにと、それだけを気にしながら帰ってきた。何しろぼくを抱きかかえるようにして運んできたのだ。疲労も尋常ではないだろう。

住職は腕組みをして慎重に言葉を選んでいるように思えた。すぐ脇で彼女がひどく心配そうにしていた。電灯がついていたので、すっかり夜になってしまったようだ。いまから帰るのはさぞかし大変だろうと思った。

「本当に初めてなのかね」と住職はまた言った。

「ええ、まあ」とぼくは答えた。

 どうも含みのある言い方だった。

「お父さんには連絡をしておくから、今日は泊まっていきなさい」

 ぼくが断ろうにも、思った以上に身体が言うことを聞かなくて布団から出れなかった。

ずっと歩きっぱなしだったから、あちこちにがたがきていたのだろう。

 それでも疑問に思ったことがあった。

「父を知っているんですか」とぼくは尋ねた。

「もう長いつき合いだよ」と住職は言った。

 父のことも、母のこともぼくは何ひとつ知らない。

 まわりはすべて知っているのに、ぼくだけが蚊帳の外なのだ。

「気をつけなさい」住職はやけに顔を近づけてそう言った。

 そっと耳にささやくようにして、こうつけ加えた。

――ハイデン。