<グローバル人材>


下村 子どもたちが同一社会から抜け出し、新たな経験を積む機会を

    設けていきたいものです。新年度は、高校生、大学生といった

    世代に関してではありますが、海外留学を後押しする施策を

    拡充させていきます。

    国の予算を増やすことはもちろん、民間企業などからの寄付も募ります。

    私も、文科省の職員も、企業を訪問し、寄付をお願いしてまわって

    います。

    東京オリンピック・パラリンピック大会が開かれる2020年までに、

    留学する高校生、大学生、海外留学を2倍にしたいのです。

    海外に行くことによって、今、木場さんがおっしゃったように、

    違う視点からものを考えることができるようになるでしょう。いかに

    自分が「井の中の蛙」になっているかが分かるでしょう。一方で、

    日本について考え直す機会になるでしょうし、もっと何かを勉強したい

    という動機も生まれることでしょう。ぜひ若い人たちに、「かわいい子には

    旅をさせよ」の国版をやっていきたいのです。


木場 数年前から「内向き志向」という言葉を聞くようになりました。

    商社に就職したのに海外赴任はしたくないという不思議な社員が

    いるそうです。

    昨年末に大臣は、英語教育の充実策を発表されました。これから、

    子どもたち、若者が英語をツールとして身に付け、外国の人に英語で

    自分の言いたいことが伝わるという経験を積んでもらえるといいですね。

    それが英語学習の動機付けになるはずです。ただ勉強しなさいと

    言われてもなかなか勉強する気にはなれませんものね。



下村 木場さんも、子どものころ、海外で暮らした経験が今に

    生きているのではないですか。


木場 大きく生きています。



下村 もし、岡山に生まれて大学卒業まで岡山にいたら、今と違う道を

    歩んでいたのではないでしょうか。新たな経験がチャンス、可能性を

    開いていのです。

    これからの子どもたちのフィールドは地球全体です。ジャングルに

    いってもニューヨークの大都会でもたくましく生きていけるというくらいの

    タフな人でないと、これから生きていけないと思います。そして、人は、

    もともとタフなのではなくて、経験の中で鍛えられるのです。

木場 私はもともと引っ込み思案の性格でした。環境が人を作ると思って

    います。幼いうちから、自分で環境を自分で切り開くことは難しいで

    しょうから、留学の場を与えるなど経験を積む場を用意してあげることも

    大人の責任だと思います。

    昨年末に発表された「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」

    には、「日本人としてのアイデンティティに関する教育の充実」という

    項目があります。このことも、とても大切だと思いました。


下村 実際、海外に行くと分かることでしょうが、言語が使えただけでは、

    グローバル人材、真の国際人にはなれません。アイデンティティを

    持つことが欠かせません。日本人であれば、日本人として海外で

    日本の文化や伝統、歴史を語れるのかどうか。根っこがしっかり

    しないと話は広がっていきません。その意味では、日本の伝統文化、

    歴史を学ぶことが、世界の多様性を受け入れる訓練になるのでは

    ないでしょうか。


木場 私は、千葉大学でコミュニケーションに関する講義をしていまして、

    入学してきた学生に最初、スピーチしてもらうのです。わが町の

    自慢話をしてほしいとお願いすると、例えば、渋谷などの遊ぶ場所に

    ついては語れるのですが、自分の住んでいる町、出身の町にどんな

    特徴があるのかあまり知らない。

    英語ができても、自分の根っこの部分が語れないと、外国の人は

    がっかりされることでしょう。自分を大事にし、親を愛し、身近なものを

    愛し、だんだん大きくなっていって国家を愛するところに至るのだと

    思っています。まずは、自分の足元を大事にすることが必要です。



下村 後で気付いたのでは遅いかもしれません。子どもたちには、

    早いうちに自分の根っこについて考える環境を作ることが大切です。
 

    この問題は、東日本大震災と深いかかわりがあります。岩手でも

    宮城でも福島でも、震災でふるさとの光景は大きく変わりました。

    だからこそ、ふるさとについて学ぼうという動きが始まっています。

    例えば、福島県浪江町の子どもたちです。今は、内陸にある

    福島県二本松市の廃校舎で、浪江小学校の子どもたちが学んで

    います。「ふるさと浪江科」という学習を通して、浪江町についてより

    深く知る授業を行っています。

    子どもたちは、焼きそばや陶器など、浪江にはいかに素晴らしいものが

    あるかを知り、太鼓などを習っています。先日、訪問した際、

    子どもたちは、いきいきと誇りを持って演奏してくれたり発表して

    くれたりしました。アイデンティティをより強固にしようという動きは、

    今、東北の困難な地域から新たに生まれているのです。


               -その3に続く