後半『鉄道の魅力や課題』





 木場 お二人が鉄道に惹かれたきっかけは?


 石破 なぜ、あの女性が好なのかと聞かれて答えられないのと一緒で、とにかく好きなだけ。

子どもの頃から駅で汽車を見るのが好きでした。最初にディーゼル特急が来た時の感動、

最初に20系の夜行特急が来た時の感動、最初に0系新幹線に乗った時の感動。

食堂車で初めてビーフシチューを食べた時の驚きも忘れられません。


 前原 生まれ育った家が叡山電車(現京福電鉄=京都市)の車庫の近くでした。

古い廃車体に入っていたずらをしたりして、遊ぶ場には常に鉄道がありました。

父親に梅小路機関区(現梅小路蒸気機関車館=京都市)に連れて行ってもらってからは

ますます鉄道にはまりました。


 木場 鉄道とともに歩んだ少年時代ですね。


 石破 中学を卒業して上京したのが15歳。言葉が分からず、方言を使えば笑われました。

もう鳥取に帰りたい。そう思って東京駅に行くと、寝台特急「出雲」のホームから

鳥取の言葉が聞こえてくる。

これに乗ったら明日の朝は鳥取だなあと。旅情あふれる石川啄木のような世界でしたよ。

夜行列車の持つ哀愁や温もりは今でも忘れられません。


 木場 鉄道には移動のための手段とは違う旅そのものを楽しむ価値観がありますね。

私は教育の仕事に多く携わっていますが、教育もプロセスを大事にしないと

結果至上主義に陥ってしまいます。

 石破 目的地に早く行きたければ飛行機や新幹線がいい。でもそれは移動であり、

そこに旅情や非日常感はありません。早く着くことだけを追い求め、

答えを早く出せという世の中がどんどん進んでいくことに違和感を持っている人は

きっとたくさんいます。

それ以外の価値観もこの世にはあるはずです。


 前原 全く同じ思いです。昔、京都から境港を往復する時によく各駅停車に乗りましたが、

車窓からその地域の雰囲気や季節を感じることができました。窓を開け、風にあたる。

鈍行だから追い越されるのもよし。いろんな人たちが乗って来てはその人たちを観察する。

米子まで10時間弱かかりましたが、飽きることはありませんでした。


 石破 私も子どもの頃、一人で鉄道に乗る時がありましたが、その時に話しかけてくれたおじさん、

おばさん、お兄さん。みんな鮮明に覚えています。鉄道には出会いがあり、

その出会いが人生を変えることだってあります。


 木場 一方で、旅情が詰まった夜行列車など採算に合わない赤字路線の廃止が相次いでいます。


 石破 一日何往復もして稼ぐことができる新幹線と違って、夜行列車は昼間寝ているので

採算性が悪いですからね。でも、お金を払ってでも乗る価値がある列車を作れば、

必ずもう一度、夜行列車はよみがえります。


 木場 何かいいアイディアは?


 石破 JR九州のクルーズトレイン「ななつ星in九州」がいい例です。

100万円近い値段にも関わらず、人気があって来年6月まで完売だといいます。

これからの日本が生きていく道は観光にあります。投入資源に対しベネフィット(利得)が大きいのが観光。早く着くことではなく、旅そのものを楽しむ豪華列車やクルーズ船は大きな可能性を秘めています。

魅力ある乗り物があれば人は来ますからね。


 木場 高齢者が増えるこの先、欧米並みにゆったりとした余暇の楽しみ方を

     もっと追求できるかもしれません。

 石破 高齢者の方は平日も時間があるのでクルーズトレインは魅力的な乗り物でしょう。

飛行機も鉄道も高速道路もある成熟社会において、どれだけの距離の移動に

何がふさわしいのか。

今こそモーダルシフト(輸送手段の転換)という考え方について議論するべきです。


 前原 日本は高速道路や空港など、鉄道と競合するものをどんどん造ってきました。

車社会になり、過疎化が進み、人口減少にまで至っています。こうしたことを踏まえれば、

鉄道の衰退は必然です。JR3島(北海道、四国、九州)も経営安定基金の運用益で

赤字を埋めている状況で、廃線や廃止をせざるを得ないところがこれからも

出てきてしまうでしょう。

鉄道好きの人間からすると悲しいですが、必然でもあります。


 木場 どこに活路を見出せばいいですか?


 前原 貨物だと思います。今はトラックやバスの運転手が不足しているので、

例えばトラックに乗せるコンテナを運ぶような貨物輸送が人材不足の中では

有効な手段になり得るでしょう。主立ったルートだけになってしまうかもしれませんが、

場所を特定した貨物輸送というものをしっかりと鉄道の使命として掲げていくことが大事です。


 木場 それは、エコにもつながることになります。

ところで、政治家として多忙な毎日だと思うが、

将来、ゆっくりされた時にしてみたい「理想の旅」とは?

 石破 「トワイライトエクスプレス」に乗ってみたいです。日本海側の黄昏を見ながら…。


 前原 私、大阪から南千歳まで乗りましたよ。

     その後、すぐに千歳空港から飛行機で帰ってきましたが…。

 石破 乗ることだけを目的にするそういう人、好きだなぁ。

     昔、「出雲」にはビデオデッキが装着されていてオードリー・ヘプバーンや

     ヴィヴィアン・リーの映画を見て夢のような時間を過ごしましたが、

今はトワイライトエクスプレスに日本酒、つまみ、本を持ち込んで移動できれば

これ以上の旅はありませんね。


 前原 旭川から稚内まで宋谷本線を旅したいとずっと前から思っていましたが、

     実は今年の8月に行ってきました。「スーパー宋谷」で約3時間半の旅路でした。

     ただ、もう一度チャンスがあれば、今度は各駅停車でもっとゆっくり進みたいですね。


                     以上です!


                                       木場弘子