14日の東京新聞&中日新聞で掲載された
コラム『紙つぶて』です。
原文&当時の写真でご紹介します!
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『体験に無駄なし』
毎年の講義で色々体験談を話す。
学生たちには頭だけで考えず、何でも体験して欲しい。
すぐには生かされなくとも、いつか引き出しから出す日が来る。
無駄なことなど一つもない、と。
28才の時、夫(与田剛)は不調で迷路の中にいた。
藁をも掴む思いで、野球理論に共感したメジャーの元コーチを訪ね、
サンディエゴへ。
大学を借りて自主トレをし、私は投球フォームを録画した。
ある日、コーチが笑顔で言った。「テキサスに行こう!」
それは、あのノーラン・ライアンに会えることを意味した。
まさかだった。
伝説の剛速球投手ライアンは、与田にとっては憧れの中の憧れ。
日本人選手に初めて会ってくれるとあって、日本からも取材に来る予定だった。
が、ロス大地震で来られなくなり、二人きりで指導を受けることに。
その光景は、フィールド・オブ・ドリームスのようで、
ビデオを回しながら涙ぐんでしまった。
「僕が良くなったのは29才からだよ」
この言葉に与田の焦りは消えた。
ご家族とのお食事で伺ったお話はどれも宝物だ。
帰国後、報道陣からは「直伝の変化球で
今年はもう大丈夫ですね」と結果を急ぐ質問ばかり。
そんなに簡単にはいかない。
いつかどこかでこの経験が生きれば、それで十分だと思った。
あれから18年。
今週、与田は思い出の地で、
レンジャーズの球団社長となった
ライアン氏と再会を果たした。
お土産話は帰国後だが、今年の講義では続編が話せそうだ。
(木場 弘子=キャスター、千葉大学教育学部特命教授)