東京新聞と中日新聞の夕刊


『紙つぶて』に毎週土曜日コラムを書かせて頂いております。


掲載地域以外の方に


毎週、原文でご紹介いたしております!


2月25日掲載分です。


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『誰かが見ている』



十二球団のキャンプ取材からようやく与田が戻った。

と思ったら、すぐに渡米する。大リーグの取材は毎年自費で向かい、

行った先でレンタカーを借り、キャンプ地を渡り歩く。


この仕事をして、強く感じるのは私たちが選手を見ているようだが、

反対に彼らも相当こちらを観察しているとういうこと。

インタビューのある時しか球場に来ない。

雑談ばかりで練習を見ていない、などなど。


有名だからと本音を話してくれるほど甘くはない。

地道に現場に通うしかないのだ。以前、こんな場面を目撃した。

若手の記者が勇気を出してベテラン選手に聞いた。

「いつもよりバットを2センチぐらい短く持っていましたか?」

速球についていけるよう練習で試みていた。

「よく気づいたなあ。こいつになら話してみるか」

ここで、彼は初めて取材者として認められる。


私もキャンプ地で初めて落合監督に

練習後、インタビューする機会があった。

経費の関係もあり、TV局には当日午後の紅白戦までに

入れば良いと言われたが、

それでは練習開始に間に合わない。

前泊して朝一番から現場に立った。

私はここで今日のキャンプの流れを一日見ています。

その上でお話を伺いたい。野球に詳しくない者のせめてもの姿勢だ。


与田は冒頭の渡航費を十年目から出して頂けるようになった。

感謝すべきことだ。どんな仕事も同じだろうが、必ず誰かが見ている。

慣れっこにならぬよう時に襟を正したい。

(木場 弘子=キャスター、千葉大学教育学部特命教授)