今月から担当している


東京新聞・中日新聞夕刊のコラム


「紙つぶて」を原文でご紹介します。


今回は1月14日掲載分です!



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 『間を持ちたい』


ヘッドホンステレオをし、携帯メールを打ちながら、

片手運転で自転車を飛ばす。身の危険を冒してまで今連絡しないと

いけないのだろうかと思う。


毎年、大学の講義の初回に学生に話す。

講義中は携帯電話の電源を切ること。

今すぐ連絡を取らなければならないほど忙しいなら、出欠など取らないから、

どうぞお外へ、と。常に誰かとつながっていないと安心できない。

間が持たないから何かで埋めたいのか。


昔話をしても仕方ないが、以前は一歩家を出たら、連絡がつかなくなった。

だから、諦めることができた。そう、線引きがあった。

しかし、今はいつだろうとどこにいようと捕まってしまう。

ずっとオンというのも神経が摩耗する。

便利さと不自由さは表と裏なのだろう。


かく言う私も携帯やパソコンの恩恵を受けて自宅で仕事に没頭していた。

しかし、十年前、息子の不満にハッとした。

彼の問いかけに対しパソコンの画面を見ながらの生返事だったのだ。

人の目を見て話す機会が極端に減り、便利なツールに支配されていた。


以来、意識して生活に間を持とうとしている。夜は仕事の電話はしない。

毎晩家族で「お茶の時間」を作り、用事の手を止め全員集合。

ゆったりとその日の出来事を話すなど。


郷ひろみさんの歌に「会えない時間が愛育てるのさ」というフレーズがある。

今は会わないどころか、メールを何時間も返さないと愛が終わることもあるのだろうか。

そんなことがないよう祈っている。

(木場 弘子=キャスター、千葉大学教育学部特命教授)