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河井の掘り下げをもっと
(C)2020「峠 最後のサムライ」製作委員会
峠 最後のサムライ
幕末、大政奉還に端を発する戊辰戦争が始まる。薩摩、長州、土佐を中心とする西国諸藩は勤王を掲げて東上。東国の佐幕藩を次々と恭順させていた。最大の抵抗勢力である会津の目前に迫った薩長軍は隣接する長岡藩に降伏を申し入れるが、家老の河井継之助(役所広司)は中立を主張。交渉は決裂し長岡戦争に突入する。
(C)2020「峠 最後のサムライ」製作委員会
初見。司馬遼太郎の「峠」が原作。司馬小説の中でも大好きな作品のひとつ。主人公の河井継之助が良い。幕府側とはいえありがちな頑固な保守派ではなく、むしろ改革派。単に勤王対佐幕でも、改革対保守ではない、幕末の複雑さがよくわかる。
もちろん小説なので史実ではない。そこを踏まえても継之助は論理的で魅力的。ただし時勢において論理は後付けされがち。幕末の嵐に埋もれてしまった理論を掘り起こしてくれるのが、函館で死んだ土方歳三であり、本作の継之助の存在だ。
(C)2020「峠 最後のサムライ」製作委員会
そういう背景があり楽しみだった映画化だが…継之助の掘り下げが不十分で、彼はなぜ薩長軍を相容れなかったのか、が見えてこない。史実に人物を乗っけただけなので、継之助の名を初めて聞く方には、ただの頑固な佐幕派に見えたかと。
時系列に沿わない司馬小説は映像化が難しい。2時間で完結する映画作品ではなおさら。小説を読み込んでテーマを色付けるエピソードを適格に抽出することが求められる。演技も美術も基準以上であったのに、脚本が上手くいってない気がした。
(C)2020「峠 最後のサムライ」製作委員会
主演役所の演技は当たり前のように申し分なし。ただし、継之助の歿年は41歳。妻役が松たか子でもあるし、もう少し若い方のほうが自然だったかも。ちなみに小説を読んでいるときの継之助は大沢たかおを当てていた。
榎木孝明、佐々木蔵之介と継之助を支える人々が豪華。大殿様にはお久しぶりの仲代達矢。司馬作品で悪名高き岩村精一郎に「お人好し」キャラ吉岡秀隆はフィットしてない。竹林で刀を振る田中泯がカッコ良い。男だらけの仲で芳根京子が可憐。
(C)2020「峠 最後のサムライ」製作委員会
木村大作と共に黒澤一派の系譜を繋ぐ小泉堯史。古さは感じず、音楽は最小限に抑えた形式美にこだわった映像はむしろ美しくさえある(←小泉監督の特徴)。本作、脚本の各所が思ってたのと乖離が大きかったなぁ。
小説と映画は別物。原作小説を監督の作家性で再構築するのが映画作品。よくあることなので、そんなに気にならなくなったけど。すいません、あくまで個人の感想です。
DATA
監督・脚本:小泉堯史/原作:司馬遼太郎
出演:役所広司/松たか子/榎木孝明/佐々木蔵之介/芳根京子/吉岡秀隆/渡辺大/AKIRA/坂東龍汰/矢島健一/井川比佐志/山本學/香川京子/田中泯/仲代達矢
hiroでした。