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音が結ぶ男女の奇跡

おと な り


親友でモデルのシンゴ(池内博之)の写真で名を売ったフォトグラファーの聡(岡田准一)。フラワーデザイナーの資格を目指して花屋に勤める七緒(麻生久美子)。アパートの隣室で暮らしながら会ったこともない二人だが、漏れ聞こえるドアの開閉音、キーホルダーの揺れる金属音、「風をあつめて」、コーヒーを挽く音、フランス語などの音で互いの存在を認識していた。



(C)2009 J Storm Inc.


交わることのない二人の恋の始まりを描いた恋愛映画を再見。タイトルの「おと な り」は「お隣り」と「音鳴り」のダブルミーニング。お隣さんの物音に耳をすます。一歩間違えるとストーカーだが、そこは恋愛映画。ファンタジーだと捉えよう。


ふだん気にすることの少ない「生活の音」。気にしてみるとそれが心地よいことに気づく。特別じゃない。ふだんから耳にしている音、リラックスしている時の音だから。恋に「特別」を求めるのも「心地よさ」を求めるのも、どちらもアリ。


音を可視化する映像も秀逸。揺れるキーホルダー、ドアベル、コーヒーミル、CDラジカセ。観ている者の記憶を通して生々しく蘇る音。映像を併せることで音が立体的になる。監督の熊澤尚人は映像詩人・岩井俊二の弟子筋に当たる。納得。


顔を知らない二人を結びつけるのも「音」。終盤、すれ違いそうな二人をある音がつなぎとめる。顔は知らなくても音は知っている。「音」を伏線アイテムとしても利用する脚本もうまい。その脚本のまなべゆきこは熊澤監督のパートナーなのだそうだ。



(C)2009 J Storm Inc.


岡田は当時まだ20代。まだ格闘術に出会う前。若いのはもちろんだが、何より顔も胸板も何もかもが小さい。まだ「可愛い」時代。W主演の麻生。映画を中心に不思議な役を演じ始めた勢いのある頃。本作は「美人のお隣りさん」役。


堺市出身・谷村美月が岡田を差し置き関西弁マシンガン。岡田義徳は七緒絡みなのでWオカダの木更津共演はなし。市川実日子は第一期黄金期。歳を重ねた現在、第二期ブレイク中。池内のトップモデルはハマリ役。貴重な雰囲気俳優だ。


ジャニーズ系映画製作会社JStormの単独製作というのは今回知った。オレ様高校生じゃないし壁ドンもない。アイドル映画感なしのしっとりした大人の恋愛模様。こういうの作ってるんじゃん。キラキラしてない大人映画、もっと作っていいのに。


こだわった音響と映像演出。ラストシーンを受けてのエンドロールの背景音が粋。「虹の女神」「君に届け」「心が叫びたがってるんだ。」…映像美+主人公の掘り下げ方。どれをとってもしっくりくる熊澤尚人。お気に入り作品。おすすめ。



 DATA

監督・編集:熊澤尚人/脚本:まなべゆきこ

出演:岡田准一/麻生久美子/谷村美月/岡田義徳/市川実日子/とよた真帆/平田満/森本レオ/池内博之



hiroでした。



虹の女神←写真家が主人公の熊澤監督作品


君に届け←熊澤監督による女子コミ実写の金字塔


心が叫びたがってるんだ←バスターズの名作実写