WOWOW鑑賞

カオスの中でも変わらない音楽
スワロウテイル

「円」が強かった時代、世界中の人々が円を求めて日本に集まり、埋立地に街を作った。日本人はその街とそこに住む人々をイエンタウンと呼び蔑んでいた。母を亡くして一人になったイエンタウンの少女(伊藤歩)は娼婦グリコ(CHARA)に拾われ「アゲハ」という名をもらう。なんでも屋「あおぞら」でフェイホン(三上博史)、ラン(渡部篤郎)らと暮らし始めたアゲハだったが、トラブルで殺してしまったグリコの客の死体からとんでもないものが出てきた。


再見。日本人が日本を舞台に撮った無国籍映画。これは傑作。設定はありがち。そこにリアリティを生んだのは街のセットや美術、衣装、メイク、言語。「あおぞら」は開発直前のお台場で撮ったと聞いた覚えがある。

中国語、英語、日本語のちゃんぽんな会話が耳に残る。日本人と日本歴が長い外国の方の会話にありがちな混ざり具合。架空の時代の架空の街がホントにありそうなくらい自然に出来上がる。映像作家・岩井俊二の魔法。


パラレル日本の世界観をもうひとつ彩っているのが小林武史の音楽。岩井俊二といえば枕詞のように出てくるメロディ・メーカー。我らがMr.Childrenの信頼できるアニキだ。本作も映画音楽にとどまらない大活躍。

ライブハウスを立ち上げたフェイホンは、グリコをボーカルとした¥EN TOWN BANDを結成。小林武史はバンドの楽曲提供はもちろん、実際にリリースしたCDもプロデュース。このCDはなかなかの名盤。


CHARAが歌もたっぷり聴かせる。惚れちゃうじゃん。日本語なしの三上が絶頂期でこっちも惚れ直す。渡部がまだ若手でカッコいい系。江口洋介のロン毛が懐かしい。桃井かおりが元気でアクションも披露。

大物だらけの主要キャストのなか、一際光っていたのが伊藤歩。当時16歳ながらかなり攻めた熱演。本作で日本の映画賞新人賞を乱獲したのも納得。大塚寧々山口智子も少ない出演ながらぶっ飛んだ怪演で印象に残る。


岩井俊二はそれほど興味はない。が本作、時代も国も曖昧な世界観に小林武史の音楽がマッチした。カオスの背景に聴こえてくる「変わらないもの」としての音楽がとても落ち着く。

犯罪劇、音楽劇、そして少女アゲハの成長物語。日本映画にあまり類がない多様性を含んだ本作は公開から24年が経過した今も色褪せない。生涯ベストにランクイン必至の大好き作品。


監督・脚本:岩井俊二/音楽:小林武史
出演:CHARA/伊藤歩/三上博史/江口洋介/渡部篤郎/大塚寧々/小橋賢児/洞口依子/ケント・フリック/田口トモロヲ/塩見三省/渡辺哲/山口智子/ROLLY/クリス・ペプラー/ミッキー・カーチス/桃井かおり


hiroでした。