27本目(5月8日鑑賞)


クソ家族に囲まれたアスリートの悲喜劇
アイ,トーニャ
史上最大のスキャンダル
 
監督:クレイグ・ガレスピー/製作・脚本:スティーヴン・ロジャース/製作:マーゴット・ロビー/音楽:ジェフ・ルッソ
出演:マーゴット・ロビー/セバスチャン・スタン/アリソン・ジャネイ/ジュリアンヌ・ニコルソン/ポール・ウォルター・ハウザー/マッケナ・グレイス/ケイトリン・カーヴァー/ボヤナ・ノヴァコビッチ/アンソニー・レイノルズ/ボビー・カナヴェイル
 
トーニャ(マッケナ・グレイス/マーゴット・ロビー)のフィギュアスケートの才に目をつけた母ラヴォナ(アリソン・ジャネイ)はダイアナ(ジュリアンヌ・ニコルソン)にトーニャの指導を強引に押しつける。母の暴力が日常だったトーニャはスケートを得て才能が開花。オリンピック候補にまでのし上がる。私生活でもリンクで出会ったジェフ(セバスチャン・スタン)と結婚。世界との戦いが始まろうとしていたそのとき、ジェフが本性をあらわす。
 

凄いの観た。傑作。

フィギュアはずっと好きだが、ケリガン襲撃はなんとなく知ってる程度。米国での騒動の加熱は知らなかった。トーニャの靴紐事件はリアルタイム。舞台裏がこんなことになっていたとに驚き。あの状態で集中できるわけがない。
 
ところが本作、襲撃事件の真相が主題ではない。一夜にしてヒロインとなり一夜にしてヒールに転じたアスリートの半生。「史上最大のスキャンダル」のサブタイトルに違和感。


「叱られないとできない子」と拳で娘を育てた母。暴力が日常。自分が悪いと思い込む。典型的なDVだ。結婚相手もそういう人を選んでしまった悲劇。暴力を振るわれては別れ、優しくされては戻りの繰り返し。トーニャのこと好きではなかったが、これでは可哀想。

本作、こんな重い話を軽妙に、笑いも交えて構成したことが凄い。メタフィクション織り交ぜ「面白く」観れる。脚本の力。トーニャとジェフの二人にインタビューし、食い違いをあえて食い違いのままストーリーに。実在の女性の人生の悲劇であり喜劇である。


オスカー女優ジャネイが圧巻の鬼母。母の愛はあるのか。あった。トーニャの抱擁(詳しく書けない)に少しだけ腕が反応。そのワンカットだけ。この徹底ぶりに震える。

ウィンターソルジャー・スタンがDV夫でどうしようもないクソ。その親友役ポール・ウォルター・ハウザーが輪をかけたクソ。オーバーアクトかと思ったらエンディングの本人映像激似で寒気。

製作に名を連ねたマーゴットが飛びきり。ホントは可哀想なのよオーラは微塵も見せない飛ばし方。「私がトーニャ! それが何か?」とメンチ。オスカー取っても不思議じゃない名演。少女時代が「gifted」マッケナちゃんなので狡い。


ちょっと逸れる。トーニャは世界で二人目のトリプルアクセル成功者。実力は本物。しかし採点競技だ。「イメージと違う」と評価されにくい。採点に対する不服。これが当時の空気。

トリプルアクセル最初の成功者伊藤みどりも苦労した。欧米人と比べて身長、手足の長さに劣る日本人。彼女の選んだ道は「技術」。誰にも翔べないジャンプに賭けた。トリプルアクセルとはそれができる魔法。

人生を賭けたスケートを奪われたトーニャの咆哮にグッときた。現在47歳、一児の母。恰幅のいいおばちゃんになって「アタシはちゃんとした母親よ」と息巻いているらしい。元気そうで何より。



hiroでした。



脚本9 映像9 音響7 配役8 音楽8
41/50