WOWOW鑑賞
アイヒマンを生んだ時代、そして今
歴史を映した男たち
監督:ポール・アンドリュー・ウィリアムズ/脚本:サイモン・ブロック/音楽:ローラ・ロッシ
出演:マーティン・フリーマン/アンソニー・ラパリア/レベッカ・フロント/アンディ・ナイマン/ニコラス・ウーデソン
1945年の終戦から15年間姿を隠していたナチスのルドルフ・アイヒマンが見つかり、ホロコーストに関与した重要人物であることから、イスラエルのエルサレムで裁判にかけられることになる。テレビ・プロデューサーのミルトン(マーティン・フリーマン)は世界が注目するこの裁判のテレビ放送を企画し、ハリウッドの映画監督レオ(アンソニー・ラパリア)にディレクションをオファーする。
hiroは現代史が苦手。アイヒマンという名を耳にしたのもここ2〜3年。しかも何かの映画のセリフだったかと。映画で勉強中(笑)
アウシュビッツで何が行われていたか。今は「みんな知ってる」こと。ところが1961年のアイヒマン裁判以前は、その非人道的な行為からの生還者の声すら何の確証もなかったことに驚き。やがて口を噤んだ生還者たちは、裁判で再び口を開く。
ホロコーストとは何か。それを世界史の常識に押し上げたのが、この裁判のテレビ放送。さまざまな障害や妨害を乗り越え、使命に燃えて放送したテレビ・クルーの物語。
累々と積まれ、ブルドーザーでゴミのように捨てられるユダヤ人の遺体。その映像をボカすことなく映し出す。居たたまれなくモニターの前を離れる人々。このシーンはキツかった。
思ってたよりハードで社会派。マスコミが世界に真実を詳らかにした瞬間。「スポットライト世紀のスクープ」と同じ匂いを感じた。
フリーマン以外は知らない俳優ばかり。そのフリーマンにしろ「ホビットの人ね」という程度。不勉強にもほどがある。W主演と言っていいラパリアも素晴らしすぎる。
一度もアイヒマンその人にフォーカスすることなく、事実を並べていく脚本が秀逸。衣装や髪型で当時の空気を醸す美術スタッフにも拍手。緩急の効いた編集もカッコいい。
放送でアイヒマンの罪を世界に問う。ミルトンの意志はマスコミとしての責任感。一方、レオは人間の狂気を追う。アイヒマンは間違いなく「悪」だ。しかし、誰もがアイヒマンになり得る。アイヒマン憎しの空気のなか、アイヒマンの、ではなく、人間の悪の本質を映しだそうとしたレオ。その揺るぎない信念に、映像作家としてのプライドを感じた。
これを今、映画化する。現代においてナチスやアイヒマンに相当するものは何?…本作のスタッフにもレオと同じ熱を感じたのは気のせいか。
hiroでした。