80本目(12月2日鑑賞)
戦中の日常に人の強さを見る
監督・脚本:片渕須直/原作:こうの史代/音楽:コトリンゴ
出演:のん/細谷佳正/稲葉葉月/尾身美詞/小野大輔/潘めぐみ/岩井七世
太平洋戦争の戦火が拡大するなか、広島佐波で好きな絵を描いてのんびり過ごしていたすず(のん)。18歳になった昭和19年、呉に住む周平(細谷佳正)に結婚を申し込まれ、深く考えることなく周平の元に嫁ぐ。戦況がほとんど耳に入らない一方で、配給の食料は乏しくなり、20年になると米軍の空襲が呉の軍港にも頻繁に現れるようになる。
日常を生きる。
例えば、どんな辛い時でもお腹は空くし、疲れるし、眠くなる。食べる、休む、眠る…それが日常。そんな「当たり前」が困難になるのが戦争。だからこそ、ふつうに日常を生きることが何物にも変えられない幸せ。
時系列ですずの日常を切り取っていく構成。いたってシンプル。しかし、我々は知っている。すずや周囲の人たちは知る由もない、その後起きることを。なので、時系列なのは辛い。日付を追うごとに気が気でない。
ある日付が登場人物の口から漏れると、寒気すら感じた。時は容赦なく過ぎる。あの日も容赦なく近づいてくる。
本作、セリフも画もリアルと妄想が入り乱れる。気が付くと全編がすずの心象。のんの柔らかい声がフィットする。だからこそ、すずが向き合うリアルが怖い。
空襲は日常に突然割り込む。「飽きる」ほど頻繁になり、すずの心と身体に大きな傷を残す。民間人の殺傷を前提とした空襲に本気で恐怖と怒りを覚える。
こんなテーマなのに重くない。戦争の話ではなく、日常の話だから。何気ない家族の会話に笑いさえ漏れる。何より素敵なのが、本作が人の強さと現代人へのエールを含んで終わっていること。号泣はしなかった、勇気をもらった。ただ、妹すみのその後を考えるとなんとも切ない。
どんなに悲しくても「死」ではなく「生」を選択する当時の人々。若い方に観てもらいたい。が、「時代が違う」と一笑に付されるかもしれないと思うと、とてもやりきれない。
コトリンゴのまあるい歌声がしっとりと沁みてくる。同じこうの史代さん原作の「夕凪の街 桜の国」も、また観たくなった。
hiroでした。
脚本9 映像8 音響8 配役7 音楽10
計42/50