7本目(1月27日鑑賞)
マーガレットを讃えるか、ウォルターを笑うか
監督:ティム・バートン/脚本:スコット・アレクサンダー/ラリー・カラゼウスキー/音楽:ダニー・エルフマン/美術:リック・ハインリクス
出演:エイミー・アダムス/クリストフ・ヴァルツ/ダニー・ヒューストン/ジェイソン・シュワルツマン/クリステン・リッター/マデリーン・アーサー/デラニー・レイ/テレンス・スタンプ
シングルマザーで似顔絵を売って生活しているマーガレット(エイミー・アダムス)。前夫から娘のジェーン(デラニー・レイ)を引き取りたいとの申し出があるが、画家仲間のウォルター(クリストフ・ヴァルツ)と結婚することで難を逃れる。
ある日、瞳の大きな少女を描いたマーガレットの絵が客の目に止まる。男の作品の方が売れると主張し、自分が描いたと嘘をつくウォルター。マーガレットのビッグ・アイズは瞬く間に人気になり、ウォルターの作品として注目されるようになる。
元々バートンは苦手な方。どこで笑っていいかわからないんだもん(特にジョニデ作品)。でも、笑えない話だけど笑えちゃう本作、とても好きです。
ビッグ・アイズが売れるとは想定外だったと思われる。ならばマーガレットへの想い、最初はホントだったのか。富と名声を手に入れると何かが壊れる。例のおしどり夫婦の離婚で話題のモラハラ。次第にエスカレート。挙句「シャイニング」を彷彿とさせる狂気に。そしてラストは見苦しいほどの茶番に笑いをこらえる。
こんな男いるわけないやん。…いや、これは実話。脚色はあるにしても、いる。エンディングの本人写真の隠しオチで終幕。実に残念な夫。
一方のマーガレット。被害者だし、女性の立場が弱い時代だし、終わってみればウィナー。ただ、ウォルターの売り込みなしではビッグ・アイズが売れなかったのも事実。富と名声を手に入れたマーガレット。ウォルターなしでは平凡な人生だったのか、なしでもその才能は花開いたのか。人生は皮肉なもの。
バートン流ユーモアをうまいことストーリーに消化した感。脚本がいい。画のセンスは控えめながら、追いつめられたマーガレットが見るリアル・ビッグ・アイズにビビる。この強烈さは抑え目でちょうどいいスパイス。ワサビだけを食するのは至難だけど、寿司につけると絶妙だもの。
音楽、衣裳、セットの時代感がいい。アトリエの無数のビッグ・アイズの美術センスが、画へのこだわりを感じさせる。
モラハラを笑えない方はたくさんいらっしゃる。そんな方が観ると「ひどい男がいるもんだ」な社会派作品。マーガレットを通して、女性の自立を訴える。男のいいなりになるんじゃない。勇気を持てと。
ウォルターの人生を笑える方にはブラックコメディ。マーガレットの視線の先に見えるウォルターの滑稽な人生悲劇。ジェットコースターのように目まぐるしく変わるヴァルツの怪演。バートンの目はむしろそこに向けられていたのではないか。
ふたつの顔を持つ興味深い構造。バートンがちゃんと作った作品。長いバートン・ファンの方には、毒気が足りなかったでしょうか。hiroはバートン失笑症候群、回復の方向です。(笑)
hiroでした。
脚本8 映像7 音響6 配役8 他(美術)8
計37/50