ゴールデンスランバー
伊坂幸太郎
原作モノの映像化作品は、「映画が先か、原作が先か」、迷っちゃいません?
映画の理解度を高めるために、できるだけ先に読むようにはしてます。ミステリーモノは犯人やトリックがわかっちゃうというドキドキ度削減リスクは高くなりますけどね。
ただ、最近は読む時間がなくて、買うだけ買って読んでない本がずらり。これもやっと読めた次第で。映画観てから2年くらいたつか?
何物かによって首相暗殺犯に仕立てられた男の逃走劇。
警察も報道も信用できなくなる。民衆の眼さえも、時に警察に通報する敵であり、時に警察の無法を監視する見方でもある。
そんな状況の中、爆弾で死んだ親友が残した「最大の武器は習慣と信頼だ」の言葉を胸に逃げ回る。
孤独な逃走であるはず。なのに思いもかけない人々が手を差し伸べる。
指名手配中の連続殺人犯だったり、学生時代の後輩だったり、当時のカノジョだったり、花火師だったり、職場の先輩だったり…まだいるけど、あんまり書くとね。
さらに学生時代の記憶が、今の主人公の逃走を助ける。そのキーパーソンになるのが元カノなわけですが、お互いに何をしめし合わせたわけでもないのに、次々とつながっていく構成力の妙。伏線の回収率も見事。傑作だ。
首相暗殺事件~犯人に仕立てられる。
JFK暗殺事件がベースなのは歴然。
(映画「ゴールデンスランバ―」より)
伊坂作品は、どこか身近でありながら、実体感がない「フワフワした作品」が多い。今回も敵が誰なのか最後まで言及していません。姉妹作「魔王」や「モダンタイムス」を読んでいただくと、なんとなくわかると思います。
ただ今作、過去作にみられるような「しかけ」要素は薄い。奇をてらわない直球勝負の感がありますね。巻き込まれ型というのもヒッチコックのようで、ハリウッド的な印象さえ受けませんか?
映像化が頭にあったかどうかはわかりませんが、映像を意識して書かれている風もあると思うんだけど。代表的な例が指名手配犯キルオの造形。映画版は濱田岳君が演じたはまり役。それもそのはず、筆者自身が岳君を当てて書いたとおっしゃってるくらいです。
主人公を差し置いて、キルオに次ぐ人気だったのが小鳩沢。ヘッドホンをあて、ショットガンを構える敵キャラ。小説でターミネーターみたいなイメージだったけど、映画化の際の永島さんはナイスキャスティング。小説を先に読んだ人も、ああこういうビジュアルなんだ~、と納得されたんじゃないかな。
キルオと小鳩沢の格闘シーン
胸躍らせた原作ファンも多いのでは?
(映画『ゴールデンスランバー」より)
主人公が最後に選んだ答えは賛否両論。決して万人が納得できる決断ではありません。何の解決にもならないではないですか。が、敵の大きさを思ったとき、リアリティのない伊坂作品の空気の中で、そこだけが異様なほどにリアリティがあるんですよ。
誰も信じられなくなりそうな冷酷な監視社会であっても、自分を守るものは「信頼」であり、人と人のつながりである。信じる心を捨てちゃ、いけないんだよね。そんな「希望」がもてる作品でした。
hiroでした。