昨日、突然退職届が送られてきた。

今までありがとうございます。

私事ではありますが、8月2日を持って退職させていただきます。

あなたに思うところがあるわけではありません。

いままで育ててくれたことを感謝してます。云々。

まあ、文章自体はありきたりのものだ。

そして私は来るものは拒まず、去る者は追わずを基本としているが、

彼女は特別だ。

会社の立ち上げからずっと一緒にやってきているので、

ある種私の右腕と言ってもいいだろう。

それに、今後の私の計画に支障をきたす。

彼女を会議室に呼び出す。

 

「なんで?」と私は聞いた。

「Hiroさんは、いつも私を泣かす。でも、約束通り戻ってきましたよね?だから、今回はやめさせてください」と彼女は泣きながら理由を説明しだした。

彼女は二人子供がいる。

2年前二人目の出産で産休に入る前に、本当は子供は自分の時間を取られるから嫌なのですが、

できちゃったからしょうがないですね。と言われ、

私は、産休明けたらちゃんと戻ってきてねとお願いした。

今、子育てをしながら、お母さんもいろいろと手がかかるし、仕事を終えてから家に帰り自分の時間がもてない。仕事も家からの電話で邪魔されるし、ストレスが大きいというような意味のことを言った。

「家政婦は雇わないの?」と私は聞いた。

「私がたぶん人を信じられないからですが、家政婦には任せたくないんです」と彼女は言った。

昨年、彼女は親のためと自分の家庭のために2世帯住宅を建てた。

そのローンはどうするんだ?仕事を辞めた後の生活費はどうするんだ?旦那さんは、正直君より給料少ないだろ?と頭に浮かんだが、それについては言わなかった。

代わりにそろそろ彼女には伝えておかないといけないなと思った。

「来年、僕は日本に戻るんだ」と

「本社に戻るんですか?フィリピンにはもう来ないんですか?なんで?」

「昇進するんだよ。だから、フィリピンに来るとしても出張ベースになる」と私は嘘ではないが、可能性の低い話をした。「だから、君には残って欲しい。9月から後任が来るけど、君さえいてくれたら、誰がきてもフィリピンは回せるから残って欲しい。逆に君がいないとフィリピンは誰が来ても回せない」

「そう言ってくれるのは嬉しいですが、Hiroさんは一人でも回せるじゃないですか?」と彼女は言った。

「僕だって、君の助けがないと回せないよ。それに会社で信用できるのは君だけなんだ」と私は言った。

彼女は、泣きながら、どこまでできるかわからないけど、できるだけやってみますと言った。

 

今朝、会社に出社してメールを開くと彼女から、私なりにベストを尽くしてみますと送られてきていた。

少し罪悪感を感じた。私は自分が酷い男だと思った。

先月の日本出張で、私が辞職の意思が固いことを示すと新しいポジションをオファーしてきたので、

本社に戻って昇進するは嘘ではない。

ただ、それは可能性として1%くらいだ。

辞める可能性は99%だ。

そして私は私の後任を新たに来る日本人ではなく、彼女にしようとしているのだと思った。

自分が詐欺師みたいで少し自己嫌悪に陥いった。