社員総会物語 ~暴走与太郎狂騒曲~ 【第六話】  | フーテンひぐらし

フーテンひぐらし

永遠の放課後。文化祭前夜のテンションで生きたい。なかなか大人になれない。

そして火曜日。
あたしは昨晩自宅でうなりながら無理やり仕上げた超おおざっぱな脚本を手に出社。


ハラダの姿は見えず。
まじやべぇな…。


実は奴のこういう「肝心な時倒れる」タイミングの悪さは予想範囲内ではあったのだが、
まさかここまで直前にやるとは思わなかった。


さて、残りのこまごました衣装はどうしよう。
あたしはさすがに買いにいくヒマがない。
しかも今日のV編のために必要なCDも全く揃えていない。
いったいいつ探しにいくんだろう。
ど平日の昼間にこんなことを頼める人はいないのだ。


よくないと思いつつ、少しずつ自分の中でパニクってくる。
さらにハラダと全く連絡がとれないのにも焦りに拍車をかける。
体調はどうなってるんだ。
まさか家で死んでるんじゃないだろうな…。


ところがハラダは自分の部署には自分の動向を伝えていたようで、
テンパッてるあたしはそれで保っていた我慢の糸が切れる。


ハラダが午後、仕事のためにやっとこさ出てきたとき、
半病人みたいな奴に対してあたしは半泣きでキレてしまった。

「仕事で連絡するのはそりゃ当然だけど、
 なぜその時あたしにも連絡しない?
 あたしはアンタのカラダも心配してるし、
 総会の段取りもひとりでやらなくちゃいけない。
 どうしていいか分からないんだから、連絡くらいしてくれ!」


連絡してこないことに腹を立て、
ハラダのタイミングの悪さに腹を立て、
でも半分あたしのせいだと思ってるから責めきれず、
きっと誰よりも不甲斐ないと思ってるのは本人だろうと分かってるからやりきれず。


火曜日昼間が今回でいちばんの悪い精神状態だったな。

悪いことに仕事もそれはそれは山積みだったし。


でもそんなときに、あたしのテンパリを優しく受け止めてくれる友人たちの何とありがたいことよ。


「ゆうな大丈夫、落ち着け♪」
「もっと俺らを頼れ!」


ええ、こっそりトイレに駆け込んで泣きましたさ!


そしてその後は少しずつ落ち着き、準備をすすめる。
それこそ、今泣いてても全てが滞るだけだし、
誰かにうえーんと甘えたら、その瞬間二度と走れない気がして。
あたしがやらなきゃ、誰がやるんだ、ええ?


仕事をしつつ、大急ぎでビデオテープの中身の書き起こしをする。

そこへハラダがやってきて、脚本の中身を確認する。


今回だけは奴の頭の中にあるものだったから心配だったのだが、
「いいねえ、バッチリ」
ばっちりじゃねえよテメーはよ…とか思ったけど、やっとこさ、少しホッ。



そのあと「情熱大陸」のサントラをゲットしに行き、
ダンサーズに残りの衣装の買い出しの協力のお願いをし。
夜は一路、南青山のデジタルマーケットへ。


エンジニアの健太さんとはもう勝手知ったる間柄なので、編集作業はさくさく進む。
そしたら携帯が鳴った。

「どう?進んでる?」家で休んでるハラダから。
「まだまだ始まったばっかだね~」
「じゃあまた電話するわ」


そのあとまた携帯が鳴る。宮城からだ。
さっき「編集に来る?」といったら
「あ、俺、飲みだから」とさくっと言いやがった宮城。


「俺いまからそっち行くけど、何かいるもんある?」



わーい♪何だよ、最初から来るっていいなよ。

宮城のこういういかにも男子的な優しさが好きだよ。



今回のビデオの主旨を全く理解していない宮城は、
実は来ても特に何かの役に立つわけではないのだが、
顔出してくれるというのはとてもうれしい。

すぐ帰ったとしても充分うれしいのである。



結局深夜にざっくり編集があがった。ワーイ!
残りは明日。

今回のヤマは、こうして越えた。ふう。