1月18日

曲とより深く向き合うためにコードと構成を書き出したものと歌詞とをにらめっこしながら、歌うべきフレーズの輪郭を思い描く。

そしてついに初めての歌唱。

練習スタジオでもらったカラオケトラックに合わせて歌う。

それをスマホのボイスメモに録音していった。

さっそく聞いてみる。

初めてこの世に形になった新曲という感慨は、毎度ながらゾクゾクとする。

しかしこちらも毎度のことながら、違和感を覚える。

キタキタキタ。制作あるある。

イメージと現実との差ってやつだ。

 

違和感は2つあった。

ひとつは、『構成認識のズレ』

この曲はAメロ、Bメロ、サビ的ないわゆるJPop定型ではない。

ポピュラー洋楽で定番のVerse、Chorusという構成でもない。

そんな構成のこの曲をどう捉えていくのか。

つまりテーマはどれか。

そこを捉えきれていないように感じた。

たとえどんな構成の曲だったとしても、主題となる部分の理解が曖昧では曲の魅力は半減してしまう。

 

もうひとつは、『歌唱表現のミスマッチ』

西間木くんからのメッセージでは『フェイクも好きに入れちゃって!』とあった。

随分と前になるけど一緒にバンドでライブもしていたから、彼は僕の歌唱スタイルをかなり詳しく知っている。

僕が普段よく行う、メロディをフェイクで味付けしたりランやリフなどを織り交ぜるフレージングは、当然ながら当初の歌唱プランとして念頭にあった。

僕が歌う意味という点にも通じる要素だし、ミディアムスローの16thフィールという曲調にも親和性は高いという直感もあった。

しかしそれでも、そういったテクニックを随所に持ち込むことは早い段階で却下していた。

歌詞に合わないと思ったからだ。

それらを踏まえての録音にも関わらず、生まれたミスマッチ。

その原因は、単語の発音と声色がわずかに強いことによるものだった。

 

これ以降は録り直しはせず、鍵盤と歌だけで繰り返し歌った。

ベストマッチを探しながらの歌唱は、配置される主題と副次要素がピタリとハマる構図を探すような作業。

毎回苦しいものだけれど、同時に『これこそクリエイション!』と呼べる最高にやりがいのある時間でもある。

 

 

1月20日

この日からはDAW(パソコンでの音楽録音編集環境)を使用して、プライベートスタジオでのレコーディングを開始した。

これまでの作ってきたフレージングを、さらに解像度をあげて、丁寧に丁寧に録音していく。

最初につるっと通して録音。そのあと2、3回同様にテイクを重ねて、しっくりくる全体像を形作っていく。

細かいピッチやタイミングのズレは、パンチ(その箇所だけ部分録音での差し替え)で、ニュアンスを追い込む。

リードヴォーカルの録音自体はものすごくスムーズに進んだ。

前段でのベストマッチを探す作業が成功したということだろう。

録音とその後のトリートメントと編集でおよそ3日間でリードトラックが完成した。

仕上がったあとの、あの『あるべきところにある感覚』はなんとも形容しがたい。

僕の少ない語彙で表すなら、『めっちゃ気持ちいいやったぜわーい!』といったところだ。

 

そうそう、録音前にはこの曲のテーマはすでに確固として固まっていた。

 

『被災地域の方々へ送る』

 

この曲はもともとはチャリティ前提で作られたものではない。

さらに歌詞の内容も様々にイメージを想起させてくれる表現が満載だ。

そんなこの曲を、上のテーマに絞ることで、数多ある正解の中から出すべき声や歌うべきフレーズが自然と選ばれていった。

 

これで完成で良いか?

それとも、よりよくこの曲を表現する上で必要なものがあるのではないか?

リードヴォーカルの乗ったデモmp3を昼も夜も何度も繰り返し聴きこんで、あるべき完成のカタチをイメージしていった。

 

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