「それでもボクはやってない」絶賛絶賛大絶賛♪ | 女子リベ  安原宏美--編集者のブログ

「それでもボクはやってない」絶賛絶賛大絶賛♪

 観て来ましたー♪ 本当におもしろかった。問題意識が近いということも勿論あると思うんですが、ネット上のレビューを散見すると、みなさん、かなり真面目ですね。これね、でもね、眉をひそめて、うーんと唸りながら観る映画じゃなくていいと思うよ。リアルを追求すると、あまりに悲惨すぎて、世界が違いすぎて「笑うしかない」ってところまでいってて、ほんとに笑えます。左派メディアに明らかに足りんのはこういうリアリティとペーソスではないかと。


 ぴあの出口調査見ても満足度ナンバー1なんですね。

 『雑誌「Weeklyぴあ」調査による、1月20日(土)公開の映画の満足度ランキングでトップに輝いたのは、周防正行監督の11年ぶりの新作『それでもボクはやってない』。『ディパーテッド』『マリー・アントワネット』といった超大作、『僕は妹に恋をする』といった話題作を抑えての1位となった。』


 もちろん、映画があぶり出していく司法の問題は、大真面目でストレートです。被害者保護の流れが裁判に与えている影響、99.9%の有罪率、未決拘禁の長さ、否認をすればどうなるか、そして実はあまりドラマチックでない裁判所、そして傍聴オタクまで(笑)。検事と弁護士のドラマではなく裁判官を主役にもってくるとこと。99.9%の有罪率に甘んじてしまう弁護士たちの自己批判まで。それに知らないこともいっぱいでした。ディテイールもほんとうに細かい。同行室なんか知らなかったよー。専門用語もそのまま使ってるんですが、文脈上ちゃんとわかるように作ってます。視聴者を信頼してる映画です。
 マスコミ、司法修習生、法曹関係者は観るの「義務」かと。裁判員制度で裁判員に選ばれた人も全員観られるように推奨したほうがいい。いやもう最低限日本人全員観たほうがいい(笑)。
 それで、この映画は「痴漢冤罪」の「痴漢」のほうにひっぱられないほうがいいと思いました。もっと大きな流れと視点できちんと描かれています。身近であることもその理由でしょうが、結審までが殺人事件などに比べ早い「痴漢冤罪」が映画としての尺にあってるから題材として使われているんだと思います。

 これ、思ったのは周防監督のペーソスと「踊る大捜査線」の亀山千広氏とのコラボがきっと大成功なんでは?周防監督がパンフのインタビューを拝見すると「現実を出したい」「現実を変えたい」と強調しておられます。亀山さんの「踊る大捜査線」があれだけ人気ドラマになったのは事件の謎解き(事件自体は大したものはない)よりも、本庁と所轄の力関係の中で、実は本当の敵は犯人ではなく組織内の圧力だったり、へんな派閥争いだったりで…その抗しがたい組織や圧力のなかで青臭くシンプルに走りまくってる所轄の刑事たちの人間ドラマに読者は感情移入していたんではないでしょうか。
 まさに「事件は会議室で起きてるんじゃない、現場で起きてるんだ!」です。

 「踊る大捜査線」が好きな人は、楽しめる映画だと思いますよ。ぜひ上映館増やしてほしいです。映画のなかでピーポ君をぶん殴ろうとする場面が出てきますが、そういう意味でも受けました。「踊る大捜査線」ではピーポ君はアイドルだったのにね。そうかそうか今度は殴るか(笑)


 パンフレットの最初に周防監督の言葉が書かれています。ステキだったので転載いたします。

 -これまでの映画もそうであったように、普段の生活の中で、僕が驚き興味を持ったことを皆に伝えたい、というのが映画を発想する出発点です。今回は、ある新聞記事に興味を持ったことが発端でした。(略)
 取材を進めるうちに「被告人がどう闘った」というばかりでなく、裁判そのもののあり方について多くの疑問が湧いてきました。疑わしきは罰せず、という言葉を聞いたことがあると思います。犯人であるという確かな証拠がない限り、無罪である(NOT GUILTY)ということです。ところが現実には、疑わしきは罰せよ、としか思っていないような判決があることを知りました。しかし、それはもしかすると、日本に生きている多くの人たちの気持ちの反映かもしれません。多くの人にとって、「疑わしきは罰せず」よりも「疑わしきは捕まえといて」の方が本音に近いのかもしれません。
 しかし、疑われるのが自分自身だったらどうでしょう。
 『十人の真犯人を逃がすとも一人の無辜を罰するなかれ』
 人が人を裁いてきた歴史の中から生まれた法格言です。この刑事裁判の原則について、今一度考えてみたい。そう思ってこの映画を作りました。-


 作品を作るという同じお仕事をしているという意味で、(もちろん私は映画という大層なものを作ってるわけではなく、監督と並べるなんて本当におこがましいんですが、出版業界の端の端にいさせていただいているただのいっかいのフリーランスである私にとっても)、とても共感する言葉でした。
 地味な学会誌に載っていた浜井浩一先生の論考にあまりにびっくりしたのが「犯罪不安社会」を作ろうと思ったきっかけです。「これ、あってます。現実です。マスコミ批判です、だからアカデミックじゃなくて一般紙で、マスコミで出さなくちゃ、マスコミの人に読んでもらわないと意味がないです!新書でやりたいんです」(→実績ないのに生意気)って青臭く言ってたのを思い出しました。私も現実を出したくて、現実を変えたくて出しました。「撮らないわけにはいかない という使命感を持って作った初めての映画です。(by 周防正行監督)」 ・・・マジかっこいいー!そうですよね、うんうん。「青臭いけど何か?」って、自信をもって言おうっと!


 映画をこれからご覧になる方はあわせてパンフレットを購入されるのをおすすめします。周防監督語りまくりで、おもしろいです。参考文献集、裁判についての素朴な疑問集(サルでもわかります 笑)など、ほんとうに力入ってます。500円で大充実のパンフレットです。買わないと損です。


 最後に、この映画のファンとして、お願い。映画は裁判を中心として描かれているので、内面への考察はなるべく控えていらっしゃいます。(私はこういう状況描写中心の表現も大好きですが)、パンフを観てるとキャラクターの背景設定も細かくされています。ドラマ化も想定してるのかな。こっちも、ぜひ観たい。テレビドラマで「踊る大捜査線」のようなエンターティンメントな人間ドラマをぜひ、作ってほしいなーと思いました。