過剰収容のカラクリについて | 女子リベ  安原宏美--編集者のブログ

過剰収容のカラクリについて

 冬枯れの街の遊鬱さんが、 前田雅英先生を検証してます。前田さんのその不思議な論文にはこちら反論できる論文ではと思うので、エントリー作っておきますね。

 刑法学者は統計の専門家じゃないっつーに。最近、前よりは、おとなしいと思ってたんですが・・・。なんか活動再開してますね。前田さんは、なぜここまでして日本の治安を悪化させたいんでしょうか。

 遊鬱さんも書かれていますが、過剰収容についてもそのカラクリを浜井先生が論文に書かれているので以下要約したいと思います。書かれていないことを中心に書きますね。


 日本の過剰収容は平成5年から問題になり、平成12年の初めて定員を超しました。この原因を浜井浩一先生は以下のようにあげています(ほかにもありますが)。

 ■ 法制度に見られる罰則強化とネット・ワイドニング

 ■ 平成13年の犯罪白書とマスコミ報道


■法制度に見られる罰則強化とネット・ワイドニング

 『97年の酒鬼薔薇事件以降、人々の間に理解できない犯罪に対する恐怖が芽生えはじめた。マスコミでことあるごとに、犯罪の増加及び凶悪化の文字が躍り、少年法改正を機に、次々と立法措置による罰則強化が打ち出された。平成13年7月には刑法改正によりクレジットカードの偽造、使用に関する新たな罰則(10年以下の懲役、1000万円以下の罰金)が盛り込まれ、いわゆる痴漢行為に対しても平成13年に東京都迷惑防止条例が改正、初犯者の罰則が5万円以下の罰金から6月以下の懲役に厳罰化。また平成13年の11月に国会で刑法改正案が可決、飲酒運転による悪質な死亡事件に対する罰則が強化され、現在の業務上過失致死罪を適用した最高刑懲役5年から、新に危険運転致死死傷罪が新設。その最高刑が15年に引き上げられた。

 今まで、実刑にはならなかった者を刑務所に入れたりするという意味で立法によるネットワイドニング(法の網の目の拡大)である。

 いずれにせよ、こうした厳罰化の法律の審議状況をみると、法案提出から可決成立までの期間が従来よりもかなり短い。国民のなかにある犯罪不安や犯罪者に対する怒りの大きさに政治、官僚が動かされている様子がわかる。

 厳罰化の動きに反することは、国民や被害者の声に応えてない、彼らの気持ちを無視した行為と受け止められかねず、交通事犯に対する刑法改正の場合、参院本会議において反対ゼロ票で成立している。

 検挙体制の強化や検察庁における起訴率、公判請求率の上昇なども変化も運用におけるネットワイドニングである。』


 刑罰は国民の総意(それなりな)のもとに作られるべきであると思う。「適正な罰」が時代によって作られたりするのは当然のことであると思う。「犯罪感」というのは社会の認識によって変わるからです。しかしながら、契機となった少年法の改正は少年を不気味さ不可解な「怪物」に仕立てあげたことによって変わったことが大きな原因である。その「変わり方」のロジックに原因があるのだ。よって、そのときの過剰な副作用が現在の青少年バッシングにつながっている。

『脱社会化的存在』という万引きするような気持ちで殺人をしているなどどいう概念を持ち出した社会学者宮台氏が何に加担したかわかりますか?そりゃあ、びびりますよ、世間は。なおそこに影響を受けたマスコミの人間が多いと思う。

まあ、真に受けて脱社会化したチルドレンも多少いるみたいだけど、実際は少年犯罪は増えていないし人を殺す少年がワラワラ出てきたということもない。エビゴーネンが数人いただけだ。岡田由希子の後追い自殺するようなものである。10年に一度みたいなすごい犯罪者というのはいつの時代もいる。
 あまり議論もなしにスピーディーに、このようなネットワイドニングがすすんでいるので、受け入れ側の体制が整ってない。「過剰収容」になるのは当然である。このような環境ではきちんとした更正も矯正もあったものではない。


■平成13年の犯罪白書とマスコミ報道

『平成13年の犯罪白書が「増加する犯罪と犯罪者」というテーマであった。それを受けた平成13年11月16日の読売が「犯罪白書、刑法犯が戦後最悪の300万件突破」というタイトルで検挙率の低下を取り上げて「治安悪化に歯止めがかからない危機的な状況」というコメントを掲載した。

 マスコミや研究者も犯罪白書を根拠とすることが多く、その役割は重要である。しかし平成13年の犯罪白書は「増加する犯罪と犯罪者」というテーマで、認知件数の増加、検挙率の低下、刑務所の過剰収容などの大量の統計を説明、解説のないまま報告している。説明がない以上、これを読んだ国民は数字どおりに治安が悪化していると思い込んでしまうではないか。

 過剰収容に関しては、平成13年に入って報知新聞が「刑務所がパンクする!犯罪者急増99%超」と報道し、同年9/9TBSの報道特集では「犯罪急増で悲鳴、塀の中パンク」というタイトルで取り上げられた。平成14年4月8日のアエラ15号でも「刑務所がパンクする」というタイトルで「暴動が起こってもおかしくない」という刑務所の過剰収容が取り上げられる。いずれも「パンク」という表現で刑務所が犯罪者であふれかえっている印象を持たせている。いずれも刑務所人口の増加はそもそも凶悪な犯罪な増加が原因であると「短絡的」な議論で解説した。 』


 浜井先生は以前「犯罪白書」を作成していた元法務官僚である、OBとして論文のなかで警鐘をならしているわけである。検挙率はネットワイドニングによって同一犯の余罪調査ができなかったことであること。殺人の検挙率は下がっていないし、認知件数は「警察のがんばった数」とみるほうがいいのである。それも少年犯罪は自転車盗とかそういうセコイ話なんだが。

 例えばストーカー規制など、今まで犯罪とされなかったものが、被害者の声によって、犯罪になることは別に悪いことではない。逆に安心材料である。でもこれはそもそもあった事案が犯罪となっただけである。掘り起こされているだけなのだ。よってもって「治安が悪くなった」ということではない、という単純な話である。よかったね、でいいはずである。

 記者のアンポンタンっていわれてもしょうがないのであるが、やはり、知らないものは知らないし、教えてあげるしかないと思う。対話していくしかないのではないかと。そういう意味で私もマスコミにいたけど、本当にまっとうなクレームというのは非常にありがたかった。2ちゃんねるのクレーマーたちを「ただのふきあがり」といってそのポテンシャルを見なかった知識人は多いが、そりゃあ病的なクレーマーだっているだろう。

 でも日常生活でも変な人は確率的にいると思うんだけど。ふつうに話してて話通じないってことだっていっぱいあると思うけど。私自身はメーカーにいたこともあるけど、まともな批判をしてくるクレーマーの人というのはすごい情報量をもっているので話すのとても楽しかったけどなあ。


過剰収容の先に何が起きるかは以前書いたエントリーをご覧ください。



参考文献

浜井浩一(龍谷大学)

「過剰収容の本当の意味」矯正講座23号 2002年

論文はさらに詳しいので本稿ぜひあたってみてくださいませ。