―本当に壮絶ですね。

 

それが、2011年1月に糖尿病の合併症で腎不全になり、国家試験の1ヶ月前から人工透析を導入する事になりました。週2〜3回人工透析のクリニックにいって、4時間人工透析をするという生活がスタートしました。

 

 

―どんどん来るっていう…

 

そうそう。こういうケースはあるかもしれないとは聞いていましたけれど、まさか自分がと思っていたから、「あーやっぱり自分にも来たか」という感じで。盲学校で学んでいた疾病の教科書に載っていた病名、まんまが自分にくるので「やっぱり私も来るんだ」って感じでした。人工透析の日々が始まったっていうのが3回目のターニングポイント。

 

 

―その時はインシュリンはしていない?

 

していました。インシュリンしながら、全盲で人工透析という、もうスーパー盲人みたいになっちゃったんです。そこで国家資格を取った後に就職をして1社目が所沢市内の治療院でした。そこで週3日人工透析に行きながら、6日働くという日々でした。

中々家でゆっくり寝れなかったですし、人工透析をしている腎不全の人は食事制限がすごく厳しいんです。水分も限られていて、1日1リットル以下と決められているから、水を飲まずに氷でしのぐとか、うがいで済ませるとか、結構ボクサーみたいな生活でした。

 

 

―まだターニングポイントあるんですか…?

 

はい、最大のターニングポイントになると思うけれども、今から4年前になります。人工透析を始めて丸3年経った時に脳死ドナー様が見つかって、そこで腎臓と膵臓を移植手術させて頂いたんです。小3からの糖尿病と、3年間人工透析をしていた腎不全が全くクリアになりました。23年間くらいずっと一人でやっていたインシュリン注射と血糖値測定もしなくて良くなりました。今4年になります。他の人と全く変わらない生活に戻って新たな生活が始まりました。

 

 

―やっぱり大きく変わったんですか?

 

全く違いますね。今まで、自分は人工透析してても、全盲でも、インシュリンしてても元気と思っていたけれど、それは精神で乗り切っていただけで、本当に元気ってこういう事なんだ、と思いました。ゆっくり寝れて、好きなものを好きなだけ食べれて、ああ、本当に体が元気ってこういう事なんだってことを体感できています。

 

 

―だから勉強もできるようになって。

 

いえ、病気の時でもセミナーとかは通っていました。師事している先生もいましたし。

 

 

―そのバイタリティはどこから来るのでしょうね?諦めという言葉も浮かぶのですが…

 

自分自身、好奇心だけでここまでやってこれている気がします。バイタリティがあるって思った事はないですし、人と比べて自分はこうだっていうのが余りないと思います。

誰かと比べて勝ちたいとも思わないし、逆に出来てないなとかいう気持ちにも余りならないです。やりたい事やって来ただけかもしれない。

 

 

―普通の人より人生について考える機会って多かったのかなって思ったのですが、例えば自分の人生においてこれが一番大切だとか、そういう事を考える機会ってあったんですか?

 

病気のせいで、これが出来ないとか、あれは我慢しようとは思わないようにしています。服飾デザインの大学に進んだのですが、1型糖尿病は高確率で目が見えなくなるというのは子供のうちから聞かされていたんです。服飾デザインは目が見えないって致命症。他に目が見えなくてもできる事って多々あると思うんですよ。例えば今の時代って音声でパソコンが使えたりとかできますし。なんだけれども、私はやっぱり目で見て楽しむっていうファッションの勉強がしたかったので今後自分の目が見えなくなるかもってところは考慮せずに、私は今ファッションの勉強がしたいからファッションの大学に行く!っていう気持ちだけで行ったという感じです。今こういう状況だから、といって自分に制限をかけないというのは大事にして来ているのかもしれない。

 

 

―挑戦には勇気がいるじゃないですか。二の足は踏まないのですか?

 

私、思い立ったらすぐ行動しちゃうので、余りリスクは考えないですね。リスク考えないから二の足踏む要素がないでしょう?できることだけ考えちゃう。それでたまに失敗するけれど、あーこういう失敗もあるんだと、それが何もやらないより実績になるので、余り失敗も怖いと思わない。

やりたいことの方で胸いっぱいになっちゃって、余りリスクを考える余裕がないのかもしれない。(笑)

 

 

―いま一番やりたい事は?

 

ザ・開業ですかね?自分の治療院を持って、自分のスキルを余す事なく患者様に提供したいと思います。

 

 

―ぜひとも叶えてほしいです!マッサージ師として、仕事で大切にしている事は何ですか?

 

マッサージ師として…接客業なので、結局はお客様とのコミュニケーションになるんですね。

そうすると会話になる。施術中にいろんなお話を尋ねなきゃいけないので、その患者さんが「この人何を質問したいんだろう」という質問の仕方をしないように気をつけています。

 

例えば初めにお力加減の確認をする場面があるのですが、「お力加減大丈夫ですか?」と尋ねてしまうと、特に日本人は「大丈夫です」と答えてしまうんですね。大丈夫じゃないかもしれないのに、「このくらいでいっか」と。で、そのあとで痛くなっちゃう。

 

本当に患者様が求めているお力加減を私が捉えるには、どう質問したら良いかというと、私が患者様の体を少し押してみて「今のお力加減より強目か弱目かどちらが良いですか?」とお尋ねします。そうすると、「強目が良いです」「弱目が良いです」「今のままでいいです」という三つの答えがあるので「大丈夫ですか」という質問よりも、より明確に患者様の気持ちを伝えてもらいやすくなります。そういう風に、ちゃんと相手が伝えたい気持ちが私に伝わるようにこちらから質問するというのを心がけています。

 

社員さんも、「こう聞いてくれた方が答えやすい」とアドバイスしてくれることもあります。お客さんとしての社員さんが教えてくれるので、ありがたいと思っています。

 

―その厚かましいところもSAPっぽいな。(笑)

 

 

(”③人生死ぬまで右肩上がり”に続く)