24年4月に読んだ本 | 「晴走雨読」 廣丸豪の読書日記

「晴走雨読」 廣丸豪の読書日記

廣丸豪(ひろまる・ごう)と言います。日々の読書生活や、気に入った本の感想などを気ままに綴ります。

4月は14冊でした。

毎年全部読むことにしている四大ミステリーランキングベスト10の本ですが、図書館の順番が回ってきて、一気に5冊進みました。残すところあと3冊。


◆可燃物(米澤穂信)
ミステリ三冠(本格ミステリは2位)作品。米澤さん、以前にも短編集「満願」で三冠取ったことあるけど、今度のは群馬県警の葛警部の短編連作。

「命の恩」「可燃物」「本物か」いずれ劣らぬ面白さ。葛警部のキャラとかそういう描写は一切なし、彼が淡々と捜査を指揮し、推理し、事件を解決していく、ガチなミステリーでした。

◆鈍色幻視行(恩田陸)
洋上に浮かぶ豪華客船を舞台にしたミステリ、お、クローズドサークル?と思ったが、誰も死ななかった。映像化しようとすると死者が出てとん挫する呪われた小説、その小説にかかわりのある人が集まってその因縁につき語り合い、真相に迫ろうとする、恩田さんがミステリーを書くとこんな感じになるのか。

面白くないわけではなかったが、600ページ超はそれなりに大変で、それでなに?って感じもあり。作中作の因縁の小説「夜果つるところ」も刊行されているそうで、そっちも読むと感じ方が変わるのかな。

◆ちぎれた鎖と光の環(荒木あかね)

荒木さんの作品は昨年江戸川乱歩賞を受賞した「この世の果ての殺人」に続き2作目。

第一部は「そして誰もいなくなった」風のクローズドサークル、割と早い段階で犯人は想像がついてしまうので今一つかなと思ったけど、3年後の第二部で今度は「ABC殺人事件」的な連続殺人事件が発生、第一部の伏線もしっかりと整理・回収されている。動機という点からもまあ無理のない範囲、サイコパス的な犯人像もそれなりに納得でき、小説としてもありがちな本格ミステリ以上の作品に仕上がっている。

すごい新人がでてきた。著者の今後に期待します。
 

◆アリアドネの声(井上真偽)
24年の「このミス」5位本。井上真偽さんといえば「この探偵が早すぎる」「その可能性はすでに考えた」みたいな変化球系のミステリ作家さんのイメージだったが、今回は何とも熱血というか、直球の脱出もの。あまり頭を使う必要もないので、面白く一気読みしました。
 

◆十戒(夕木春央)
前年の「方舟」同様、ちょっと変わったシチュエーションでのクローズドサークルでの連続殺人事件、ホームズ役の綾川さんのなぞ解きが淡々と進み皆納得、でもこのままで済むはずがないよなと思ったら、案の定だった。

面白かったけど、ラストのインパクト、真犯人のイヤミス度は「方舟」が凄すぎたので、それにはちょっと及ばないかと思いながらパラパラと二度読みしてみたら、だんだん真犯人の印象が、、、これ「方舟」とつながっているのかな?綾川は旧姓だっていうし、下の名前わからないし。そう思うと衝撃5割増し。
 

◆七つの会議 (池井戸潤)
短編連作、というよりも8章からなる一つの小説ですね。池井戸さんお得意の勧善懲悪ものの企業小説、テーマはデータの改ざん、というよりも企業風土と危機管理、企業のあり姿、といったことに及ぶのでしょうか。この小説が書かれたのは2011年、10年とちょっと前、今や日本企業のガバナンスは東京建電よりもはるかに進化していると信じたいです。
アマプラで映画の方も観ましたが、ちょっとクサすぎ。
 

◆四月になれば彼女は (川村元気)
サイモン&ガーファンクル、世代なので、頭の中にあの歌声が流れます。映画やってますよね、佐藤健、長澤まさみ、森七菜の豪華キャストで、まだ観てないけど。このストーリーだと映画になりにくいので映画は別の脚本になってるのかな。

それにしても藤代、弥生に婚約破棄までさせて、3日3晩した後は3年もセックスレスって、どういうこじらせ方をしたらそうなるのか、若いのに性欲はないのか、信じられん。とまあ、美しくも切ないラブストーリーとは全く異次元の感想を持ってしまいました。

◆なれのはて(加藤シゲアキ)
第170回直木賞候補作。著者の作品は多分5冊目、今まで何となくNEWSの加藤シゲアキという色眼鏡で見ていたが、今回のはテーマが重厚、1枚の絵画から始まるミステリー、戦中戦後の日本の石油産業を背景に複雑に折り重なる人間関係、さらにジャーナリズムに対する問題提起も。万城目さんよりもこっちが直木賞なんじゃないと思ってしまいました。

◆ABC殺人事件 (アガサ・クリスティー)
古典的名作ですよね。初読みでした。

途中犯人が自主、状況証拠も揃っちゃっているわけですが、それで済むはずもなく、なるほど、動機から考えれば一番ありそうな人が犯人だった。よくできた作品でした。

◆高家表裏譚7 婚姻 (上田秀人)
忠臣蔵のイメージとはほど遠い、颯爽とした若き日の吉良上野介のお話もはや第7巻。今回は上野介の嫁とりの話。太平の徳川の世に必要となった、京都の天皇・公家との関係や、外様大名に秩序を持たせるための仕来りとか礼儀作法。効率を無視した官僚制の進展と、それを担う立場になる高家の傲慢、周囲の反発、火種も見え隠れしたまま、話はなかなかに進まない。討ち入りまでに何巻を要するのだろうか。

◆三体 (劉 慈欣)
前評判の高かった本ですが、うーん、自分にはあまりあわなかったみたい。文革で葉哲泰が紅衛兵に殺される場面とその後の葉文潔の運命、怨念には胸を打たれましたが、そこじゃないですよね。この小説は。自己矛盾から災厄を呼び寄せてしまった人類の運命やいかに、って展開ですが、個人的な相性の問題で、続編を読もうって気には今一つなれないかなー。

◆幼女戦記 13 Dum spiro,spero (上)(下)
長年追いかけたこのシリーズもいよいよ大詰め、ずいぶん間が空いてしまい戸惑いもあったのですが、読んでみればいままで通りのクオリティ。

どこぞの帝国の戦争末期を思わせる、総力戦による国力の損耗、地滑り的な敗北という最悪の事態を避けるべく、模範的な軍人であったターニャが愛国心を発露から道を踏み外す決断をする。それを知ったゼートゥーア大将、ターニャの暴走を追認するや、さらなるミッションを彼女に課す。

ピュロスの戦いというから魔導士は捨て石になったのかと思いきや、まだ続くみたいですね。

そもそも戦争は外交の一手段なのに、戦争に勝つことが目的化して泥沼にはまり込んだ帝国が、その破滅をギリギリのところで回避する。無条件降伏以外の条件で戦争を終わらるには一発殴り返し、相手が痛がっているときに、相手のメンツをつぶさない条件を出すのがいいのかな。幼女戦記というタイトルとは裏腹に、深い戦争小説だと思います。ゼートーゥアがターニャをいかに使って戦争を終わらせるか、次巻に期待です。


◆ネット右翼になった父 (鈴木 大介・講談社現代新書)
前半と後半で全く印象が違った本。前半、亡父をネトウヨ扱いする著者に「偏向してんのはお前の方なんだよ」と非常に腹立たしい気持ちで読み進めたが、父の言動等に真摯に向き合った結果、自分の方にも少なからずバイアスがかかっていたということを素直に反省した著者に共感を持った。それにしても家族とのコミュニケーションは難しい。私自身友人は多い方だし、仕事上でも評判が良い人間と自負しているが、両親や妻、子供との関係ということになると全くもってうまくやれている自信がない。身につまされる本でした。

4月の総評としては、

インパクトがあったのは、ミステリーでは何といっても「十戒」、米澤穂信さんの「可燃物」は安定の面白さ、新人の荒木さんのもなかなかでした。
加藤シゲアキさん、これで直木賞取ってほしかったなー。

「幼女戦記」最終巻が待ち遠しいです。

「ネット右翼になった父」、久々に面白い新書を読みました。