松本市郊外にある梓川病院は高齢の患者が多い。 特に内科病棟は、半ば高齢者の介護施設のような状態だった。
その内科の研修医・桂正太郎が、3年目の看護師・月村美琴ととも、患者に対して真摯に向き合い、不慣れながらも懸命に地方の医療と向き合う物語。
「神様のカルテ」の著者で現役の医師でもある夏川草介さんの、「神様のカルテ」同様の人情系の医療小説。実際に同作の主人公・栗原一止が、登場しかかるというニアミスもあって、同作との距離感は近い。
違いといえば、高齢者医療という日本が抱えている問題に真剣に切り込んでいるところ。
私も昨年95歳の父を、本人の希望の通り、延命治療をせずに自宅で看取った。人間って、動物って、食事ができなくなると本当に1週間で死んでしまうんだ。高齢ながらも頭ははっきりしていて、なんとか自力で生活できていた父が、弱り始めたなと思ったらあっという間だった。
一方義母は認知症を患い、ほとんど口もきけない大阪の義母は、脳梗塞や発熱で施設と病院を行ったり来たりしながらも生を得続けている。
まさにこの小説に描かれている「根っこが切れている」に近い状況にある。15年ほど前に義父がなくなり、「なかなかお迎えが来ない」が口癖だった義母は今の状況を臨んでいただろうか。
自分が最期を迎えるとしたら、父と義母のどっちが良いかと言われれば、間違いなく父のように死にたい。
ほとんどの人がそう思っているのではないか。それなのに、現実はどうしてそうならないのか。
生と死の在り方に悩みながらも、まっすぐに歩みを進める2人。きれいごとでは済まされない、高齢者医療の現実を描き出した、感動の医療小説である。
と同時に、医師の過重労働についても考えさせられた。
最近、大阪で研修医が過重労働から鬱状態になり自死する事件があったが、医師不足の現実に加え、病院の経営側の意識の問題が大きいように思え、この点についてはどうやら夏川さんも体制派のようだ。
一止さんも、正太郎くんも、心身ともに大変なストレスを負っており、これが現実なのだとしたら、彼らの健康が心配でならない。