「汝、星の如く」(凪良ゆう)「木綿のハンカチーフ」的王道ラブストーリー | 「晴走雨読」 廣丸豪の読書日記

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廣丸豪(ひろまる・ごう)と言います。日々の読書生活や、気に入った本の感想などを気ままに綴ります。

汝、星の如く

 

凪良ゆうさんの本屋大賞受賞作&第168回直木賞候補作。凪良さんは「流浪の月」に続いて二度目の本屋大賞。今回の受賞作は前回と違って同い年の二人、王道のラブストーリーです。

 

風光明媚な瀬戸内の島に育った高校生の暁海(あきみ)と、京都から島に転校してきた櫂(かい)の二人が主人公。
暁海の父は不倫相手のところに入りびたり、一方の櫂は、幼い頃から男にだらしない母に振り回されてばかり。狭い田舎の島のこと、二人の家庭の噂は尾ひれをつけて町中に広がり、島で知らない人はいない状態。

ともに腐れ親のために好奇の目で見られる境遇、孤独を抱えた二人は、惹かれ合い、やがて恋人同士となります。

こうなると若い二人は止まらない。浜辺で堂々青姦をしているところを北原先生に見つかり、注意されてしまいます。

この先生、プロローグに名前が出てくるので、「えっ!」ということになるのですが、それは、まあ、最後まで読めばわかる話ということで。

 

前半は「木綿のハンカチーフ」展開です(古っ!)。

櫂は高校在学中に、ネットで知り合った尚人と「バグマン。」ように漫画をつくり、見事青年誌の連載を勝ち取ります。卒業後、櫂は勇躍東京へ。
当然彼と一緒に東京へ行くつもりだった暁海、しかし彼女の母は父の不倫相手の家で放火未遂事件を起こし、精神を病んでしまう。そんな母を見捨てられず、一人島に残ることになった暁海。

 

櫂は東京で成功します。漫画原作者が櫂で作画担当が尚人、作品は重版を重ね、アニメ化もされます。当然収入も増え、周りもちやほやする。

一方の暁海は田舎でくすぶったまま。仕事を頑張っても古い因習が蔓延る田舎町では女性が正当に評価されることはありません。次第に気力を削がれていく暁海、櫂との遠距離恋愛もやがて破綻してしまいます。

 

と、ここまでが前半。後半はどうなるんだろうとハラハラドキドキ、ページを繰る手が止まらない。この辺が本屋大賞たるゆえんなんだろうなー。

 

尚人はもーほーでした。未成年の恋人とのことが表ざたになるというスキャンダルで連載は突然連載打ち切りに。尚人は精神を病んでしまいます。それでも彼と作品を作り出すことにこだわる櫂は、細々とした仕事で食いつなぐも、金を無心する毒親に、貯金も精神もすり減らしていきます。

一方、暁海の父の不倫相手は自立した女性でした。彼女の影響で趣味として始めた刺繍、アクセサリーの仕事がようやく軌道に乗り始めます。いよいよ動き出すかに思えた暁海の人生、しかし宗教にはまった母が貯金を食いつぶした挙句に交通事故を起こし、精神を病んでしまう。病の母と彼女の作った借金という二重の重荷を背負ってしまった暁海。

またも母親のせいで泥沼にはまる二人、どこまで糞なんだと腹が立ちます。

 

ここまでも、ここから先も、ストーリー展開はかなりきついものがあるものの月並みと言えば月並み。でも一気に読ませる文章力はあって、なるほどだから直木賞じゃなくて本屋大賞なんだと納得。

 

二人の生き方から、生きることの自由さと不自由さについて考えさせられました。

自分の人生は自分のもの。親でも、恋人でも、たった一度の人生を悔いなく生きるための障害になるのであれば切る決断をする。それができないのはやさしさではなく弱さ。

いまさらながら自分は自分の人生を全うしよう、そう思わせる、切ない物語でした。