家族のために犯罪に手を染めた男。拾った犬は男の守り神になった―男と犬。
仲間割れを起こした窃盗団の男は、守り神の犬を連れて故国を目指す―泥棒と犬。
壊れかけた夫婦は、その犬をそれぞれ別の名前で呼んでいた―夫婦と犬。
体を売って男に貢ぐ女。どん底の人生で女に温もりを与えたのは犬だった―娼婦と犬。
老猟師の死期を知っていたかのように、その犬はやってきた―老人と犬。
震災のショックで心を閉ざした少年は、その犬を見て微笑んだ―少年と犬。
犬を愛する人に贈る感涙作。(「BOOK」データベースより)
この作品が直木賞とは、、、書店員さんが選ぶ「本屋大賞」ならわかるけど、大御所の先生方がこの作品を押すとは意外です。
東日本大震災を釜石で被災した少年と犬が5年後に熊本で再開するまでの短編連作で、犬の多聞が東北から九州までの長旅の途上でさまざまな人と出会い、その仮初の飼い主の死を看取ったりしながら旅を続けるという、いかにもお涙頂戴の感動作。多聞の目的地がどうやら九州らしいと分かった時点で、先の展開がだいたい読めてしまう、はっきり言ってひねりのない小説です。
それぞれの短編は夫々の多聞の仮初の飼い主の目線で描かれており、当たり前ですが犬の多聞は何も語らない。窃盗犯、家庭を顧みない夫、愛人を殺害してしまった娼婦、不治の癌に侵された老猟師、訳ありの人がさまざまな自分の都合を重ね、寄り添う多聞に癒されて飼い主になりますが、最後は多聞の目的地を目指すという想いを感じて手放す決意します。
縄文の昔から犬は人間に寄り添う存在、犬の人を癒す力は偉大です。
我が家にも、多聞とは似ても似つかぬバカ犬ですが、15歳になる愛犬がいます。この本を読みながら、おそらくはそう遠い将来ではない彼との別れを想像してしまい、つい涙してしまいました。愛犬家の琴線に理屈抜きで訴える感動作で、選考委員の方々の中にも愛犬家が多かったのでしょうか、これって反則技だろと思わなくもありません。