「ノースライト」(横山 秀夫) 仕事へのプライド、家族への愛、ミステリー仕立ての圧巻のお仕事小説 | 「晴走雨読」 廣丸豪の読書日記

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廣丸豪(ひろまる・ごう)と言います。日々の読書生活や、気に入った本の感想などを気ままに綴ります。

ノースライト

一級建築士の青瀬は、信濃追分へ車を走らせていた。望まれて設計した新築の家。施主の一家も、新しい自宅を前に、あんなに喜んでいたのに…。Y邸は無人だった。そこに越してきたはずの家族の姿はなく、電話機以外に家具もない。ただ一つ、浅間山を望むように置かれた「タウトの椅子」を除けば…。このY邸でいったい何が起きたのか?(「BOOK」データベースより)

 

昨年の「文春ミステリー」1位、「このミス」「ミステリが読みたい!」2位、今年の本屋大賞にもノミネートされている話題作で、かなり期待して読み始めたが、ミステリーというよりも、普通に小説として面白かった。

 

バブル崩壊とともに建築士としての矜持も失ない、離婚もしてしまった青瀬に、「あなたの好きな家を建ててください」という依頼が舞い込む。心血を注いで設計した、やさしい光が差し込む北向きの家、自分の代表作ともいえるこの一軒の家が、青瀬を立ち直らせた。ところが、この家に住むはずだった吉野一家が、家に住んでいないという情報が。訪ねてみると、確かに引っ越した形跡は無く、そこにはただ一脚のブルーノ・タウトの椅子が残されているばかりだった。

 

自分の代表作ともいえる家が気に入ってもらえなかったのだろうかと自信を失いそうになりつつ、それでも失踪した吉野一家を捜す青瀬は、やがてタウトの椅子を手掛かりに、ダム工事現場で働き、最期は山で滑落死した父と、家を依頼した吉野の父の思ってもみなかった接点にたどり着く。そして、別れた妻がこの話に一枚かんでいたことを知る。

 

一方で、青瀬の会社の社長で盟友の岡嶋は、青瀬のこの家に触発され、自分も名を残せるような仕事をしたいと、藤宮春子の記念ミュージアム建設のコンペに参加する権利を獲得、しかしその時の無理がたたって雑誌記者に付きまとわれ、コンペは辞退、自分自身も入院、そして不慮の死を遂げてしまう。青瀬たちは、岡嶋の弔い合戦と、得にもならないミュージアムの設計を完成させる。

 

前半がやや冗長に感じたが後半は圧巻、謎解きもだが、青瀬らの建築に対する情熱が熱い、上質のミステリー仕立てのお仕事小説に仕上がっている。