「熱源」(川越 宗一) 文明国に向かって邁進する明治の日本が、アイヌにしてしまったこと。 | 「晴走雨読」 廣丸豪の読書日記

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廣丸豪(ひろまる・ごう)と言います。日々の読書生活や、気に入った本の感想などを気ままに綴ります。

熱源

故郷を奪われ、生き方を変えられた。それでもアイヌがアイヌとして生きているうちに、やりとげなければならないことがある。北海道のさらに北に浮かぶ島、樺太(サハリン)。人を拒むような極寒の地で、時代に翻弄されながら、それでも生きていくための「熱」を追い求める人々がいた。明治維新後、樺太のアイヌに何が起こっていたのか。見たことのない感情に心を揺り動かされる、圧巻の歴史小説。(「BOOK」データベースより)

 

第162回直木賞受賞作にして、20年の本屋大賞にもノミネートされている話題作です。

主要登場人物ですが、ポーランド人で政治犯としてサハリンに流刑となりアイヌの研究者となったプロスニコフとその妻チェフサンマ、彼が写真に残したアイヌの酋長バフンケ、白瀬南極探検隊に犬橇係として参加したアイヌのヤヨマネクフ、シシラトカ、皆実在の人物なんですね。

高名な歴史上の人物を主人公にしているわけではないのですが、私は歴史小説として読みました。

 

絶滅危惧種なんてことばがありますが、それは動植物に限ったことではない。アイヌに限らず、北米のインディアンも南米のインディオも、生活環境を変えられて疫病で勢力を削られ、劣等種族と差別を受け、同化を強いられてアイデンティティを失ってしまう。先進国も、決して彼らを滅ぼそうという意図はなかったと思いますが、文明社会に自然淘汰を強いられた少数民族の哀しい衰退の歴史がここにあります。

 

時は日清・日露から大東亜に至る戦争の時代、今から100年ほど前の日本、自らの自主独立を守るために、文明開化、富国強兵、必死になって強国への道を歩んだ日本が、その過程で引き起こしてしまったこと。

といって、アイヌら少数民族の側も、なすすべなく衰退していったわけではない。どうしようもない時代の流れの中で、アイヌであることに矜持を持って生きた人たちの物語、直木賞にしてはエンタテインメント色は薄め、でも心打たれるもの作品でした。