「レインマンが出没して、女のコの足首を切っちゃうんだ。でもね、ミリエルをつけてると狙われないんだって」。香水の新ブランドを売り出すため、渋谷でモニターの女子高生がスカウトされた。口コミを利用し、噂を広めるのが狙いだった。販売戦略どおり、噂は都市伝説化し、香水は大ヒットするが、やがて噂は現実となり、足首のない少女の遺体が発見された。衝撃の結末を迎えるサイコ・サスペンス。
(「BOOK」データベースより)
荻原浩さんと言えば、直木賞を取った「海の見える理髪店」や「月の上の観覧車」のような哀愁漂う短編集や、「オロロ畑でつかまえて」「逢魔が時に会いましょう」「オイアウエ漂流記」のようなコミカルな作品を書かれる方というイメージがあるのだが、ミステリーもとは多彩ですね。しかも、それが実によくできたサイコ・サスペンスで、正直驚きました。
女子高生を絞殺し足首を切り取るという連続殺人事件が発生。猟奇的なシリアルキラーを追う、中年の所轄巡査部長・小暮と、本庁強行犯係の美貌の警部補・名月のコンビである。
スマホが登場しないので10年ちょっと前の作品になるのだろうか。となると、渋谷はヤマンバ時代?二人は、閉鎖的で独自の行動規範を持つ被害者に近しい若者たちに地道な聞き込みを続け、殺人の手口に酷似したレインマンという都市伝説にたどり着く。
この噂は、香水の販促目的で、とある広告会社によって意図的に作られ、流布されたものだった。模倣犯か、それとも広告会社の関係者が犯人なのか。そして、その犯行の動機は?若者の街・渋谷で、やや場違いな凸凹コンピが独自の視点の捜査で犯人に迫る。
小暮は元は本捜査一課勤めだったが、妻の事故死を機に、娘・菜摘を男手ひとつで育てるために第一線を退き、今はさえない所轄の中年刑事である。名島は、刑事だった夫を過労死で亡くしながら、手柄を立て、特進で警部補になった美貌の刑事で、5歳の男の子を持つシングルマザーである。立場は違えど、共に配偶者と死別した子持ちの刑事、最初はちょっとぎくしゃくしたけど、お互いの能力を認め合い、適度な距離感で公私ともに絆を強めていく二人の関係が何とも小気味よい。
犯人は、噂を流布させたコムサイトとその関係者であろうということは想像がつく。こんな猟奇的な犯罪を犯しそうなのは誰?動機は?ということで、登場人物の中から犯人が絞り込まれていく。ぎりぎり間に合って犯人を追い詰めた二人、しかし最後の最後で被疑者は逃走中に転落、死亡ということになってしまう。我々読者は犯人の理解しがたい動機を読んで知ることができるが、警察、検察側からすれば、真相は闇の中ってことになるのだろう。
でも、それだけでは終わらない。したたかな萩原さんは、最後に、ホラー、イヤミス要素ありの夏向きのどんでん返しも用意をしていた。帯にある通り、最後の「きもさぶ」にびっくり!!!
これほどの作品が、「このミス」をはじめ、各ミステリー本のランキングにかすりもしなかったとは、、、ミステリー評論家の皆さんも、荻原浩さんはノーマークだったのだろう。
。