ある秘密を抱えた月ヶ瀬和希は、知り合いのいない環境を求め離島の釆岐島高校に進学した。釆岐島には「神隠しの入り江」と呼ばれる場所があり、夏の初め、和希は神隠しの入り江で少女が倒れているのを発見する。病院で意識をとり戻した少女の名は七緒、16歳。そして、身元不明。入り江で七緒がつぶやいた「1974年」という言葉は?感動のボーイ・ミーツ・ガール!(「BOOK」データベースより)
釆岐島高校は、なんでも先代の「伝説の校長」が、廃校寸前のところを立て直したそうで、寮も完備し、不便な離島にありながら県外からの生徒も多い。でも、都会からわざわざこんな不便なところまで来る奴って大体はワケありなもので、主人公の和希もそんな一人。
その和希が、立ち入り禁止の「神隠しの入江」で発見した少女の名は七緒、島の住民のようだが、彼女の言う住所に家はなく身元は不明、なぜか苗字は明らかにされないまま、結局の元名主で彫刻家の高津の家に居候することになる。
七緒はどうやら1974年からやってきたらしい。最初は頑なだった彼女も徐々に和希に心を開き、一方で父親が罪を犯したという和希の家庭の事情や釆岐島高校への進学理由も明らかになる。和希の過去がばれ、クラスメートとの間ですったもんだが起きたことで二人の絆はさらに強くなっていくが、彼女は結局元の世界に戻っていなくなってしまうという、お約束の展開。
で、1974年の高校生といえば、60歳くらいになっているであろう、今、七緒はどこにいるのか。今の彼女を知る島の住民が、島にいてもよさそうなものだけど、、、
ということで、思いっきりネタバレになるが、七瀬は、実は「伝説の校長」その人であった。七緒は、元の世界で大人になっても和希への想いを持ち続け、必死になって過疎化で生徒数が減ってしまった高校を立て直す。校長と生徒として彼に再開するために。その思いもかなわず、タイムカプセルの手紙に想いを託すことになるのだが、、。
高瀬や担任の仁科先生は、タイムリープしてきた七瀬の正体に気付いていたのかな。そりゃ、同姓同名なのだからきっと気付いていたはずだ。それでいて本人にも、和希にも、知らないふりをした。この島は、なんでも飲み込んでないことにしてしまう、そんなところがある。
ありがちなタイムリープ、タイムパラドックスものなのだけど、出会うはずのない二人のひと夏の邂逅は、単に甘酸っぱい思い出に留まらない。恋心をばねにした七緒の努力と、その叶わなかった想いが自分の様なおじさんの胸をも打つ。
集英社・オレンジ文庫なので、ジャンルとしてはライトな文芸書、今年のナツイチ本で、読友さんの評価もなかなか高かった本。ナツイチのおかげでまた1冊、良い本に出会えた。