明治天皇が北海道に行幸し、義経号に乗車する。だが、北海道大開拓使・黒田清隆に恨みをもつ屯田兵が列車妨害を企てていた。探索に放った諜者は謎の死を遂げた。
警視総監は元新撰組三番隊長斎藤一こと藤田五郎に探索方を依頼。藤田に従うのは清水次郎長の子分、法印大五郎。札幌入りした二人は、不平屯田兵の妻が黒田に乱暴され首吊り死体となった事件を探る。書下し長篇歴史冒険推理。
(「BOOK」データベースより)
他のミステリー・ランキング本に先立って発表された「ミステリが読みたい!」でランクインしていたので読んでみた。辻真先さん、アニメの脚本もやってらっしゃる方ですよね。85歳だって。びっくり。
いきなり登場するのが勝海舟に清水次郎長親分、二人に密命を言い渡される主人公は元新撰組の三番隊長、斎藤一こと藤田五郎。ミッションは薩摩閥の大物政治家、北海道大開拓使の黒田清隆の黒いうわさの探索と、明治天皇のお召列車の護衛。旧賊軍の新撰組隊長が旧官軍の首魁の探索と、彼が企図する行幸の護衛、それを命じるのが江戸城無血開城の立役者・勝海舟とは、歴史って皮肉。
斎藤一に付き従うのは次郎長配下の侠客・法印大五郎、明治天皇に供奉するのが山岡鉄舟という、豪華メンバーというか、歴史の皮肉というか、歴史好きをワクワクさせる掴みだ。
酒乱で女狂いの北海道大開拓使・黒田清隆が屯田兵の妻を犯して殺害したという殺人事件の探索と、それを恨みに思った屯田兵が黒田の失脚を狙って明治天皇の乗車するお召列車の運行を妨害するという、二本立てでストーリーは展開する。
実在の人物以外にも、オオカミに育てられた少女やら、殺された屯田兵の妹の女剣豪やら、漫画っぽい、個性的な人物が次々と登場する。
真犯人捜しというミステリー要素もありながら、やはりクライマックスは義経号の運航を妨害しようとする元八丁堀の同心たちと、藤田・法印たちの息詰まる攻防だろう。
意外なというか、案の定というか、真犯人の動機も明らかになり、お召列車の方も派手に犠牲を出しながらの大団円、エピローグで藤田の妻(「八重の桜」のヒロイン・新島八重の親友・時尾、大河ドラマでは貫地谷しほりが演じていた)から手紙が届く。
血で血を争う闘いの日々もこれで終わり、新撰組の生き残りの彼が送ったであろうその後の穏やかな人生。余韻を残した終わり方がまた良い。