真実を歪めたのは誰だ?STAP騒動の真相、生命科学界の内幕、業火に焼かれる人間の内面を綴った衝撃の手記。(「BOOK」データベースより)
図書館本を順番待ちしていたので旬が過ぎてしまったが、STAP細胞騒動に関する小保方晴子さんご本人の手記である。
実は、私自身は、彼女のことを悪く思ったことは一度もない。
女子力って言葉がある。男性は、ひたむきに頑張っているある種の女性の姿を見ると、損得抜きか、多少なりとも下心をもってかはともかく、とにかく応援したくなってしまう。彼女もそんな女子力を持った女性だったのではないだろうか。
彼女が着想した多能性細胞は、えらい先生方が次々と指導と実験への協力を申し出、研究は広がりをみせる。単なる培養実験ではなく、STAP細胞と名付けられたその細胞を使ってキメラマウス(多能性幹細胞を注入して成長させた、複数の遺伝子を持つマウス)を作成するまでにハードルが上がってしまう。
結局、小保方さんが培養した細胞を先生役の若山教授がマウスに移植、キメラマウスは作成され、その論文は権威ある専門誌「ネイチャー」に掲載された。
彼女が若い女性だったために、マスコミが大々的に持ち上げる。ところがその後、彼女の論文の掲載資料に不備が発見され、順風満帆だった彼女の研究者としての人生は、ここで一転してしまう。
文系頭の私が正確に理解できている自信はないが、論文自体の信ぴょう性が根底から揺らぐような、本質的な問題ではないように思える。でも不備は不備、専門家の間で糾弾され、始末をつけさせられる分には、それはそれで仕方がない。
ところが、散々持ち上げたマスコミが、今度は一転彼女の批判を展開、多能性幹細胞が何たるかも知らない一般大衆も報道に流され、世間の非難は彼女に集中する。
こうなると彼女が所属する理化学研究所も手の平を返す。研究者の世界も結構魑魅魍魎が跋扈する世界、立場の弱い、発言力のない彼女はストレイシープにされ、事態は魔女狩りの様相を帯びる。
問題の本質は、STAP細胞は実在するのか、ねつ造なのか、である。
査問委員会の追及と過熱するマスコミに精神を病みながらも、彼女は気力を振り絞って再現実験を行った。でもキメラマウスを作成したのは彼女ではなく若山教授、彼がキメラマウスの作成を放棄した時点で、STAP細胞は確認できなかったということになってしまった。
マスコミの攻撃にさらされ、論文を指導した笹井教授は自殺、早稲田大学は数年前の彼女の博士論文の不備を理由に博士号をはく奪、彼女は研究者としての将来を奪われる。
マスコミに一旦悪人認定されると、もうどうしようもない。周囲も、見方をすると自分もやられるから、オセロの駒を反すように敵に回る。孤軍奮闘しても最後は精神を病んで自滅するしかない。
今の世の中、ペンを持つものは圧倒的な強者である。その傲慢さ、強引さたるや、へイトスピーチやかいじめに立派なご意見を言っているのと同じ人たちとは思えない。
この本は、絶対弱者の精いっぱいの反撃である。私は、この本を読んでカタルシスを感じた。
