「流」(東山彰良) | 「晴走雨読」 廣丸豪の読書日記

「晴走雨読」 廣丸豪の読書日記

廣丸豪(ひろまる・ごう)と言います。日々の読書生活や、気に入った本の感想などを気ままに綴ります。

流

1975年、偉大なる総統の死の直後、愛すべき祖父は何者かに殺された。17歳。無軌道に生きるわたしには、まだその意味はわからなかった。大陸から台湾、そして日本へ。歴史に刻まれた、一家の流浪と決断の軌跡。台湾生まれ、日本育ち。

超弩級の才能が、はじめて己の血を解き放つ!友情と初恋。流浪と決断。圧倒的物語。 (「BOOK」データベースより)

 

選考委員の満場一致で第153回直木賞を受賞した作品。全編を通じて骨太のミステリーが一本芯を通っているものの、その本質は痛快青春小説だろうか。

舞台は1970年代の台湾、私が初めて彼の地を訪れたのは82年だが、なるほど確かに当時の台湾はまだこんな感じだった。亜熱帯の気候と発展途上の街並みが発する埃っぽさや饐えた匂いが行間から漂い、表現にどっしりとしたリアリティが感じられる。

 

治安や秩序が未だ不安定な時代と国を舞台にした、ダイナミックな小説である。日中戦争、国共合作、内戦、外省人と内省人の対立、戒厳令、徴兵制、中国・台湾・日本、親子三代にわたり歴史に翻弄されながらも、混沌とした時代を破天荒に生きる登場人物たち。

台湾生まれの著者でなければ書けない物語ではある。

 

退学、毛毛との悲恋、暴力の因果応報、波乱万丈の運命が秋生の身に次々と降りかかる。

この秋生、私とほぼ同世代である。

当時の日本は、台湾や中国とは比べれば、整備された、清潔で秩序ある社会ではあったが、そこはやはり昭和、新宿や渋谷も、中心を少し外れると混沌とした世界が残っていたように思う。

若さとはいつの世も無軌道なもの、この物語を読みながら、疾走していた若き日の自分を想わずにはいられなかった。