(あらすじ・内容)
お笑い芸人二人。奇想の天才である一方で人間味溢れる神谷、彼を師と慕う後輩徳永。笑いの真髄について議論しながら、それぞれの道を歩んでいる。神谷は徳永に「俺の伝記を書け」と命令した。彼らの人生はどう変転していくのか。
人間存在の根本を見つめた真摯な筆致が感動を呼ぶ!「文學界」を史上初の大増刷に導いた話題作。
(感想)
今更言うまでもありません。240万部も売れた15年最大の話題作。
これだけ売れたってことは、普段芥川賞など読まない人が読んだということ。それだけに書評も賛否両論いろいろでした。
私は、直木賞はほとんど全部読んでいるのですが、芥川賞はほとんど読まない。
「世間じゃずいぶん話題になってるけど、どんなもんかいな?」いっちょかみしておくかくらいの気持ちで読んだのですが、これがなかなかに面白くて、結局一気読みでした。
破天荒な先輩芸人、神谷。彼は、漫才師はこうあるべきという自分の信条をしっかり持っていて、自分がおもろいと思ったことはすぐ何でもやってしまう。他人がどう思うかなんて関係ない。
一方で徳永は、神谷に強く惹かれながらも、自分が、客観的にみてお笑い芸人であるために、漫才師であり続けることに全力を傾ける。
孤高の芸人、神谷とその唯一といってもいい理解者、崇拝者の徳永。漫才師かくあるべきとの信念を曲げない神谷と、漫才師であり続けることに全力を傾けた徳永。心にしみる二人のお笑い哲学。
でも、その努力は報われない。手っ取り早くバラエティで成功する才能は、漫才とは全く別のもの、芸の良し悪しではない。やるだけやった徳永、スパークスの最後の漫才は悲しくも感動的でした。
一方で、神谷先輩は、結局何もできないまま。借金を重ねた上に友も失い、最後はわけのわからないことになってしまう。
なるほど、これがオチですか。物語全体が、ほろりとさせられるひとつのお笑いになっています。
芥川賞、直木賞って、新人作家の登竜門と言いながらも、数ある文学賞の中で一番伝統がある賞で、それだけに一発屋にはやらないという傾向があり、何度か候補になってやっと受賞する傾向が強い。
それだけに、デビュー作で取っちゃった又吉さんは異色。同じ漫才ネタというわけにもいかないだろうし、次を書けるのかなって、ちょっと心配しています。