私の父は。

私が産まれるずっと前に、職場で大事故に遭いました。

父の職場は。地元で一番有名な製錬所。


ある日。

長い鉄パイプが数十本、高いところでぐらついていたそうです。その下に父の後輩が立っていて、父は「危ない!」と叫びながら、後輩さんを突き飛ばしました。そしたら、鉄パイプは私の父に襲いかかりました。


足を60針縫う大怪我。半年間入院。その時にボルトを入れたのですが、冬になると毎年うずく様です。とても運動神経の良かった父ですが、大好きな草野球が出来なくなってしまいました。


完治してから、父は職場に復帰。ですが、また同じ業務に就かされる事になり、父は立腹。製錬所を止めて、水道屋になりました。


水道屋は、あまり仕事がありませんでした。

週に2〜3回くらいだったでしょうか。

現場担当者の方が、車で父を迎えに来て下さっていました。

私は、今でもはっきりと覚えています。

母の手作りのお弁当を持って、魔法瓶に麦茶を沢山入れて。窓を開けて腰掛けて、車を待ち続けていた父の背中を。  

とても切なくて悲しげな、父の背中を。


父は、今は間質性肺炎と戦っています。

この頃になって、母に『製錬所を辞めなければ良かった。そしたら、子供達に苦労をかけずに済んだのに…。』と、話すようになったそうです。


他の姉兄の心中は分かりませんが…。

私には、特に苦労した覚えが無いのです。

私は、父が大好きです。


時々喧嘩する、おしどり夫婦です。

私の母は、今でも「お父さんを愛している。」と、はっきりと明言します。

入籍したのは、クリスマスイブ。

強面だけど、とてもロマンチストな父。


私の両親。

私の理想の、夫婦像なのです。


【人の苦労は、買ってでも買え。】との諺があったと思います。苦労を重ねますと。貧乏人なりの、知恵が生じます。

私は。

裕福な家に産まれなくて、心底良かったです。