ここ数日あることを決めてから、原因不明の
頭痛や発狂しそうなほどの息苦しさを経験した。
今夜の息苦しさのそれは半端なく、「出て
いってくれ!」と声に出してしまった程だ。
「お前を一生、苦しめてやるぞ。俺からは
逃れられないんだ」
僕の中の悪魔が囁く。
そうはいくか。
僕と悪魔のせめぎあい。
「お離しなさい。もうあなたは、この人を
苦しめる必要はありません。これ以上は、
私が許しませんよ」
さっきの声とは違う。
優しくかつ暖かな女性の声が僕の頭の
上から、聞こえてきた。
「誰だよお前は! 俺はな、こいつを苦しめる
ことが生き甲斐なんだ。邪魔する奴は、こっち
が許さねぇぞ!」
僕の中の悪魔が、言い返す。
「私は…この人に呼ばれた大天使です。この人
が新しい道を選択するために来ました」
大天使と名乗る姿なきその声が、答える。
「大天使だ? なんだ、それは? 俺が大嫌いな
観音みたいなもんか?」
「そうですか。あなたは、観音様が嫌いなのですね。よく、わかりました」
すると…
どこからともなく、読経が聞こえてくるでは
ないか。
『南無観世音菩薩、
南無観世音菩薩、
南無観世音菩薩』
「あぁ…おぉっ…おい、止めろ! 止めてくれ!」
悪魔が絶叫する。
僕の身体が僕の意思とは関係なく、
痙攣し始めた。
嫌がっている。
僕の中のそいつは、明らかに嫌がっている。
追い出すなら今しかない!
僕は震える身体のまま、読経した。
「南無観世音菩薩、南無観世音菩薩、
南無観世音菩薩、南無観世音菩薩…」
何度繰り返しただろうか。
痙攣は激しくなり、「うぇっ」という嗚咽と
ともに…悪魔は口から舌を出した状態で
絶命した。
「大天使様、いや観世音菩薩様。ありがとう
ございます。あなたのお蔭で、身も心も軽く
なりました。本当にありがとうございます」
大天使(観音様)はいなくなったのか、
悪魔の抜けた僕がひとり。
僕は塩をひとつまみ、悪魔の絶命した
場所にふりかけ、戒めと弔いのために改めて、
「南無観世音菩薩」と「南無釈迦牟尼仏」を
七返唱えた。
これで僕は新しい道へ踏み出せる。
僕の中の悪魔…それは僕に新しい道へ
踏み出すきっかけをくれた。
ありがとう。
今まで付き合ってくれて。
これからは、あなたはあなたの居場所に
帰ってください。
観音様は、お釈迦様のところへ必ずや
あなたをお連れくださいます。
2011年6月16日。
僕の中の悪魔が、浮かばれた日。
さようなら。
毎年この日にあなたの冥福を祈ります。
松本 博堂←僧籍を取ったら、こうします!
(臨済宗妙心寺派檀信徒)
本当はここに僧侶と書きたかったりして。
不思議な夜の物語…

