プロローグ
一定のリズムで時を刻む、メトロノーム。
ヒロミは、ピアノでショパンの「別れの曲」を弾いている。
なぜだ。
なぜ、こんなにも虚しさに駆られるのか。
ヒロミの心に、とてつもなく巨大な渦がぐるぐると拡がっていく。
まるで深海にでも吸い込まれそうな勢いだ。
そうでなければ、巨大な竜巻に、空高く舞いあげられそうだ。
そんな気分に苛まれていると、ピアノの鍵盤を叩く指がシューベルトの
「魔王」を奏で始める。
私の心の中に棲みつく魔王が、激しい旋律を弾くことを望むのだ。
ヒロミは魔王に支配された操り人形と化す。
もはやヒロミはヒロミではない者として、今存在する。
ヒロミは何を感じているのか。
ヒロミは心の中に巣くうこの魔王とどう対峙するのか。
「ヒロミよ。私は魔王だ。これから君の心を支配させてもらうよ。
私は人の心を弄び、ギタギタに傷つけるのが楽しみなのだよ。
おっと。どんなに君が抵抗しても無駄だよ。私が君を選んだのは、
そう。旨そうだったからだ」
ヒロミは自分の中にいる見えない巨大な力によって、雁字搦めに
されていた。
ヒロミは一生、この魔王に縛り付けられたまま過ごすことになるのか・・・
いや、そうではなかった。
この悪夢のような魔王の存在からヒロミは解放される時がやってくる。
人生とは数奇なめぐり合わせ。
物語は、ここから始まるのである。 (続)
博薫堂